234 / 2001

第234話

 死合いを終え、アクセルは会場から出た。今回の相手はランキング三桁の発展途上の戦士だったため、さほど時間をかけずに勝つことができた。  それはいいのだが……。  ――兄上、やっぱり見に来てなかったな……。  死合い開始直前、念のために会場全体を見渡してみたのだ。観客席は満員だったが、どんなに大勢の人がいても兄だけは見落とさない。これだけは絶対の自信がある。  だから会場に目を凝らしたのだが、ボックス席はおろか立ち見席にも兄の姿はなかった。  死合いだったらもしかしたら、こっそり見に来てくれているかもと期待していたから、少しがっかりした。遠くから眺めているだけなら、顔を合わせることにはならないと思ったのに……。  ――俺の姿すらも見たくないってことなのかな……。  そんなことを考えかけ、いや、と首を振る。  喧嘩する前であっても、兄はほとんど自分の死合いを見に来てくれたことがなかった。というか、弟の死合いスケジュールを認識しているかどうかも微妙である。兄のことだから、単に忘れているだけかもしれない。  あまりネガティブなことは考えないようにしよう……と自分に言い聞かせ、アクセルは会場から離れようとした。 「親分~!」  その時、お決まりのようにロシェがこちらに走ってきた。  会場から出てきてすぐに駆け寄ってくるとか、随分とタイミングがいい。やっぱりどこかから常に見張られているのかな……とうっすら思った。あまり人を疑いたくはないけど、だからといって気を許すのは危険だし。 「親分、死合いお疲れ様です! 楽勝でしたね!」 「ああ、まあ……な。ランクに差があったからだろう」 「親分の実力ですよ。いや~、やっぱランキング三十五位の戦士は違いますね~」 「……ありがとう。それで何の用だ?」 「やだなー。親分、死合い終わったら山に行きましょうって言ったじゃないですか。まさか忘れてませんよね?」  やはりか。考えておくと言葉を濁したままだったから、再び突撃しに来たらしい。

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