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第234話
死合いを終え、アクセルは会場から出た。今回の相手はランキング三桁の発展途上の戦士だったため、さほど時間をかけずに勝つことができた。
それはいいのだが……。
――兄上、やっぱり見に来てなかったな……。
死合い開始直前、念のために会場全体を見渡してみたのだ。観客席は満員だったが、どんなに大勢の人がいても兄だけは見落とさない。これだけは絶対の自信がある。
だから会場に目を凝らしたのだが、ボックス席はおろか立ち見席にも兄の姿はなかった。
死合いだったらもしかしたら、こっそり見に来てくれているかもと期待していたから、少しがっかりした。遠くから眺めているだけなら、顔を合わせることにはならないと思ったのに……。
――俺の姿すらも見たくないってことなのかな……。
そんなことを考えかけ、いや、と首を振る。
喧嘩する前であっても、兄はほとんど自分の死合いを見に来てくれたことがなかった。というか、弟の死合いスケジュールを認識しているかどうかも微妙である。兄のことだから、単に忘れているだけかもしれない。
あまりネガティブなことは考えないようにしよう……と自分に言い聞かせ、アクセルは会場から離れようとした。
「親分~!」
その時、お決まりのようにロシェがこちらに走ってきた。
会場から出てきてすぐに駆け寄ってくるとか、随分とタイミングがいい。やっぱりどこかから常に見張られているのかな……とうっすら思った。あまり人を疑いたくはないけど、だからといって気を許すのは危険だし。
「親分、死合いお疲れ様です! 楽勝でしたね!」
「ああ、まあ……な。ランクに差があったからだろう」
「親分の実力ですよ。いや~、やっぱランキング三十五位の戦士は違いますね~」
「……ありがとう。それで何の用だ?」
「やだなー。親分、死合い終わったら山に行きましょうって言ったじゃないですか。まさか忘れてませんよね?」
やはりか。考えておくと言葉を濁したままだったから、再び突撃しに来たらしい。
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