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第237話
「っ……!?」
反射的に身を硬くし、小太刀の柄に手をかける。地震のような地響きは、だんだん大きくなってこちらに近付いているようだった。
――こんな麓にもイノシシが現れるのか……?
ここなら大丈夫だろうと思っていたのに。早く山から出た方がいい。
そう思って振り返ったら、何故かロシェの姿がなくなっていた。いつの間にいなくなったのか。先に帰ったんじゃないだろうな。
――まったく……逃げ足の早いやつだ。
だったら自分もさっさと逃げるに限る。アクセルは背後に気をつけながら、後ろ走りで来た道を戻った。本当は前を向いて全力で走りたかったが、イノシシに背を向けたらエサだと認識されてしまう。
前方の様子を伺いつつ、なるべく早く走ったのだが、葉の隙間からチラリと見えたその姿に、思わず目が丸くなった。
――イノシシ、じゃない……?
大きいことは大きいが、イノシシの毛並みと違う。毛皮の色も白……いや、完全な白というより銀色に近いか。イノシシ特有の牙がない代わりに、眼光がやたらと鋭い。これは典型的な肉食獣の目だ。イノシシのような雑食ではなく、肉になる獲物を求めている獣の目だ。
その獣が、周りの木々をなぎ倒しながらずんずんこちらに迫ってくる。
――ちょっと待て、なんだこいつは……!?
見た目は巨大なオオカミ……に見える。少なくともイノシシでないことは確かだ。
しかし普通のオオカミにしては姿が異形だった。銀色の毛並みはともかく、何故か頭が二つある。双頭のオオカミ神ということか。そんな神獣が山にいるなんて聞いていない。
しかも大きさは二階建ての家屋と同等で、アクセルなど一口で飲み込まれてしまいそうだった。
――なんだよ、この展開は……!
甘かった。イノシシにさえ喰われなければ、夢のようにはならないと思っていた。
でも考えてみれば、イノシシでなくてもかまわないのだ。オオカミでもトラでも、大きければ何でも。
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