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第238話
「くっ……!」
アクセルは急いで山から出た。
山は獣のテリトリーだが、逆に言えばそれ以外は彼らの行動範囲ではないのである。人間の縄張りに足を踏み入れるほど、獣も愚かではない。山から出てしまえば、余程のことがない限り獣は追いかけて来ないのだ。
――ここまで来れば……!
アクセルはオオカミ神の様子を窺った。
山から完全に出たオオカミは、意外なほど美しかった。姿は確かに異形だが、毛並みは艶めいて体毛の一本一本が溌溂として見える。決して痩せているわけではなく、獣らしい筋肉が発達していた。
少なくとも、獲物を求めて追いかけてきたようには見えなかった。
「グオォォン!」
だが、予想に反してオオカミ神はしつこく追ってくる。何が目的なのか、何のために自分を追ってくるのかさっぱりわからなかった。
仕方なくこのまま街まで逃げようとしたのだが、ある人の顔が脳裏をよぎってすんでのところで踏みとどまる。
――ダメだ、街には兄上がいる……!
そんなところにオオカミ神を引き込んだら、兄が喰われてしまうかもしれない。
いや、兄は強いから平気かもしれないけど、下位ランカーたちはどうだ。自分よりランクの低い戦士たちは、根こそぎ喰われてしまうのではないか。さすがにそれはマズい。
やむを得ず、アクセルはなるべく人がいない広場までオオカミ神を誘導し、そこで初めて抜刀した。逃げ回っているだけでは埒が明かない。きちんと向き合わなければ。
「たあぁぁッ!」
一気に跳躍し、突進してくるオオカミ神の足元目掛けて二振りの小太刀を薙ぎ払った。こういう大物相手は、いきなり急所を狙っても通用しない。まずは脚などのダメージを与えやすいところから斬っていって、そこから機会を窺うのだ。
もっとも、それまでアクセルの体力がもつかが問題だが。
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