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第239話

 ――いろいろ仕事をした後だからな……。  朝から兄に手紙を書き、ピピを山に送りに行き、死合いに出て、再び山に入り、オオカミ神に追いかけられ、今に至る。スタミナをつける訓練はしてきたつもりだが、それでも朝一番に戦うのとでは全然違う。  やはり一人でどうにかするのは手に余る。誰か強い人の応援が欲しいところだ。  ――兄上……。  また兄のことを考えかけ、ぶんぶんと頭から振り払う。  だからダメだと言ってるだろうが。今回は兄には頼れないんだ。こうやってピンチになる度に兄に縋りたくなるのは自分の悪い癖である。そんなことしてるから、兄に愛想を尽かされてしまうのだ。いい加減、自立しなくては。一人でなんとかしなくては……。 「っ……!」  斬りかかった途端、横に大きく前脚を振り払われ、アクセルは慌てて飛び退いた。前脚に隠れている鋭い爪が胴に掠った。その勢いで服が裂け、腹部の皮膚も薄く剥けた。  ――一発でも食らったらアウトだな……。  これだけ体格差があると、相手の攻撃全てがアクセルにとっては致命傷になる。どう考えてもこちらが圧倒的に不利だ。 「うわっ……!」  オオカミ神が太い尻尾を振り回し、地面にバシンと叩きつけてくる。  直撃はしなかったが、尻尾で地面を叩かれた振動で足元が揺らいだ。危うくバランスを崩しそうになり、アクセルは飛び跳ねながら距離をとった。 「きみは何故俺を追ってきたんだ!? 目的は何なんだ!?」  言葉が通じるかはわからなかったが、聞かずにはいられなかった。  こんな神獣を一人で倒せるとは思っていない。そこまで自分の力を過信してはいない。ならばせめて、理由を聞いて丁重に山にお帰りいただくのが一番いいのではないかと思った。 「食べ物が欲しいわけじゃないだろう? 何か人間に恨みがあるのか? どうか訳を聞かせてくれ!」 「グオォォォン!」  オオカミ神が吠えた。空気を痺れさせるほどの遠吠えが、ヴァルハラ中に響き渡った。 「……?」  ビリビリした殺気が少しだけ静まった。前脚でバァンと地面に叩き、二つの頭でこちらを睨んでくる。そして剥き出しにした牙の隙間から、低い呻き声を出した。

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