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第241話

「っ……!」  不意に、外から牙に大きな衝撃がかかった。オオカミ神の丈夫そうな犬歯が一本バキッと折れた。隙間から外の景色が見えた。  次の瞬間、できた隙間から誰かの手が伸びてきて、自分の胸倉を掴んだ。そして力ずくで外に引きずり出されると、その人物はアクセルを抱えて跳躍した。 「あ……っ」  見間違えるはずもない。太陽に輝く美しい金髪と、白をベースにした戦闘服、短めの片マントがひらりと翻っていた。 「兄上……!?」 「ユーベル、今だよ」  地に降り立ち、兄は少し離れたところにいたユーベルに合図を送った。 「お任せあれ」  ユーベルは華麗な仕草で巨大な檻の扉を開けると、中にいたオオカミを解き放った。オオカミは勢いよく獣神の方へ走っていくと、甘えるように一声鳴いた。  足元のオオカミに気付いた獣神は、暴れるのをやめて鼻をすり寄せた。 「おお……娘よ、どこにいたのだ。心配したぞ」 「うおぉん……」 「もう勝手に巣を離れるでないぞ。さあ、帰ろう」  今までの怒りはどこへやら、娘が見つかった途端、あっさりと山へ引き返していくオオカミ神。娘さえ取り戻してしまえば、後のことはどうでもいいといった態度だった。まったく、獣らしいというか何というか……。 「大丈夫かい、アクセル?」 「あっ……」  兄に抱えられたままだということに気付き、アクセルは慌てて離れた。どんな表情をすればいいかわからず、顔を背けたまま言った。 「その……助けてくれてありがとうございました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」 「……ありゃ? 何でそんな他人行儀なの? 戦闘中に変なところに頭ぶつけた?」 「そっ……」  あまりにいつも通りの口調で言われ、逆に拍子抜けしてしまった。なんだその言い草は。こっちはあなたの怒りを買わないよう、かなり気を遣ったつもりなのに。  やや眉を顰め、アクセルは地面に投げ捨てるように言う。 「……兄上は、俺のこと怒ってるんだろう?」 「あー……あれか。えっと、何というかね、説明すると長くなるんだけど……」 「……? どういうことだ?」

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