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第250話

「お前が毒を盛られて私に襲い掛かってきた時、お前は本当に『あんたさえいなければ』って言ってたんだよ。これに関しては嘘じゃない。『私はお前にとって邪魔者だったんだな』って、かなり落ち込んだんだ。それで気分が沈んじゃって、ヤギの蜜酒を浴びるほど飲んだのに全然酔えなくて、最終的にはジークに慰めてもらって……」 「……えっ? ジーク様にって……」 「ごめんね。でも私も耐えられなかったんだ。誰でもいいから慰めてもらいたかったんだ」 「…………」  顔を上げて、アクセルは兄を見た。驚きももちろんあったが、それ以上に何だか腹が立った。傷ついたのはわかるが、それで誰かに慰めてもらうとは何事だ。俺は友人には頼らなかったのに。 「……兄上の浮気者」  口を尖らせてムスッと呟いたら、兄は困ったような表情になった。 「ええー……? 本当に慰めてもらっただけだよ。それ以外の感情はない。お前がピピちゃんにしてもらったのと同じじゃないか」 「違う、ピピは動物だ。ただ側にいてくれただけだ」 「でも、ジークだって本命じゃないし」 「そういう問題じゃないだろ! なんで開き直ってるんだ!」  とうとう我慢できなくなり、溢れる感情のまま兄を怒鳴りつけた。 「もう他の男とは寝ないって約束したじゃないか! 俺がいなかった時はしょうがないにしても、今は違うだろ! 人に慰められたら浮気なんだよ!」 「それは……」 「ホントに信じられない……! いくら耐えられないからって、友人に慰めを要求するなんて……!」 「…………」  兄はしばらく無言だった。頭に血が上っていたアクセルは、兄の表情がみるみる曇っていくのに気が付かなかった。  やがて出てきた兄の声色は、今までにないほど弱っていた。 「……じゃあ、私はどうすればよかったわけ……?」 「え……」 「ピピちゃんみたいな動物がいれば、私だって友人相手に慰めなんか……」 「あっ……」  今更ながら、自分が理不尽なことを言っていると気付いた。

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