269 / 2004

第269話

 自分でお湯を張っていると、後から兄も入って来て、一緒に身体を洗うことになった。  約束通り、兄は強引に組み敷いてくることはせず、アクセルが身体の内側を綺麗に洗っている最中も、自分は髪を洗ったり背中を流したりしていた。 「ねえ、今日の夕食は何を作ってくれるの?」  二人で並んで湯船に入っている時、兄が肩に頭を乗せてきた。こうして兄が甘えて来てくれるのは純粋に嬉しくて、アクセルは穏やかに微笑んだ。 「兄上は何が食べたい? 家にある食材しか使えないけど」 「お前の料理は何でも美味しいからね。でもそうだな……今日はがっつりお肉の気分だ」 「肉か……。ステーキ用の鹿肉があればよかったんだが」 「なければお肉じゃなくてもいいよ?」 「いや、保存用のイノシシ肉があったはずだ。それを使おう」 「いいの? ありがとう。じゃあ明日の朝は一緒に市場まで買い出しだね」 「そうだな」  肩に乗っている兄の頭に、自分の頭を乗せてみる。それだけでこの上ない幸せを感じ、アクセルは兄の手をぎゅっと握り締めた。  のぼせる前に風呂を出て、新しい服に着替えた後、二人でキッチンに入った。  食料を蓄えてある戸棚には、保存用のイノシシ肉の他に、じゃがいもが数日分、小麦粉にチーズが残っていた。  そう言えば、最近いろんなことがあって買い物に行けていなかったことを思い出す。今日の夕食くらいはなんとかなるが、明日はちゃんと朝市で食料を調達して来ないとダメだ。  アクセルはイノシシ肉やチーズを取り出し、包丁で食材を切り刻み、フライパンでじっくり焼いて調理した。  その間、兄は小麦粉を水で練って団子状にしていたが、「一口サイズにしてくれ」と頼んだのに大きさがバラバラになっていた。  茹でムラができるから、できれば大きさは揃えて欲しかったのだが、そこは大雑把な兄らしく「まあ食べれれば何でもいいじゃない?」と能天気な答えが返ってきた。  ――まったく、兄上は……。  呆れてしまったが、兄が大雑把だからこそ自分が真面目になったという気がしないでもない。二人でバランスをとっているのだと思えば、それも少し嬉しくなってくる。

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