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第287話
――後は、「狂戦士モード」をもっと安定させられればいいんだが……。
正直なことを言うと、アクセルは「狂戦士」になるのに心理的な抵抗があった。トラウマに近いかもしれない。一度失敗して兄を殺してしまったせいか、「また暴走してしまうのでは」という不安にかられ、ピンチの時であっても躊躇ってしまう。
自分にもっと自信が出てくれば「大丈夫だ」と思えるのかもしれないが、生憎アクセルにはそこまでの自信はない。
とはいえ、「狂戦士モード」から逃げ続けていたら、これ以上のランクアップは難しそうだし……。
――もう一度兄上に相談してみるか……。
そんなことを考えながら自宅に戻ったら、兄は既に起床していた。
「おはよう、アクセル。ランニングとは感心だね」
「ああ。もっと強くならないといけないからな」
「うんうん、そうだね。お前みたいな頑張り屋なら、必ず強くなるよ」
兄が冷たい水をくれたので、アクセルはありがたくそれを飲み干した。ランニング後の冷水は最高に美味しい。兄がくれたものならなお美味しい。
「ところで兄上……ちょっと相談があるんだが」
「何?」
「狂戦士モードを安定させるには、どうすればいいんだ?」
「安定って? コントロールしたいってこと?」
「あ、ああ……俺は、その……まだ上手く狂戦士になれないから……」
ちょっと目を反らしつつ、声を低くする。
自分の欠点を自ら口にするのはやや心苦しかったが、この期に至ってはやむを得ない。
「んー……そうだなぁ。いろんな方法があるけど、洞窟を歩いてみるとか」
「……洞窟?」
意味がわからず首をかしげると、兄は顎に手を当てた。
「街外れの山に、長い洞窟があってね。中に入ると光も音も届かなくて、ずーっと無音の闇が続いてるんだ。そこを一日かけて歩いて抜けるの。意外と大変だけど、それを一度やると生まれ変わったみたいにメンタルが強くなるんだったかな」
「そうなのか。それはいいな」
一人で黙々歩くだけなら、誰も傷つける心配はないし、兄の手を煩わせることもない。
自分のランキングを確認したら行ってこようかな……と思っていると、兄がニヤリと口角を上げた。
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