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第294話
「兄上、この本どこにあったんだ? 戻してくる」
「えー? いいよ、係の子が戻すでしょ」
「そういう、やりっぱなしはよくないぞ。自分で借りてきた本は自分で戻さないと」
「お前は真面目だねぇ……。私とは正反対」
「兄上が大雑把すぎるんだよ」
アクセルは図書館への階段を登り、兄の本を戻しに行った。タイトルや著者名を確認し、並んでいたであろう本棚まで足を運ぶ。
――しかしこの本、『ヴァルハラの歴史』って……。
こんな歴史書を兄が読んでいたとは意外だ。
少し興味が湧いてきて、アクセルは一ページ目を開いた。そこには目次が書かれており、ヴァルハラが成立した過程から、管理者のヴァルキリーのこと、絶対神オーディンのことまで書かれているようだった。
「お前、そういうの興味あるの?」
後ろからついてきた兄が、アクセルの手元を覗き込んでくる。
「私はそういう細々したお話、苦手なんだよね。読まなきゃいけない時はあるけど、説明書とかホンットにめんどくさい」
「兄上は説明書とか、絶対読まずにやるタイプだもんな」
「うん。お前みたいなしっかり者が弟でよかったよ。めんどくさいこと全部やってもらえるもん」
「……はいはい」
普段、兄に助けてもらってばかりなので、自分がフォローできることはしてあげたい。もちろん限度はあるけれど。
――これ、借りて行こうかな。
面白そうだったので借りる手続きをして、アクセルは自分の家に本だけ置きに行った。そして改めて兄に洞窟の前まで案内してもらった。
「ここだね」
街外れの山を中腹まで登り、ピクニックができそうな開けた場所に出た。芝生などが生えているのどかな広場だったが、一ヶ所岩肌が剥き出しになっている部分があった。
そこに、洞窟と思しき穴が空いている。
「え、こんなに小さいのか……?」
思わず二度見してしまった。
もっと入りやすく大きな洞窟だと思っていたのに、高さはアクセルの太ももくらいまでしかない。四つん這いにならないと中に入るのは難しそうだ。
直立して歩けるものだと思っていたため、この時点で少し怖じ気付いた。洞窟を抜けるまでずっと四つん這いのままというのは、さすがにちょっとしんどいのだが……。
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