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第295話
「ああ、大丈夫だよ。中は普通の大きさだからさ」
そう言って、兄が四つん這いになって中に入っていく。細身ではあるものの兄もそこそこ背が高いので、腕や脚が引っかかって大変そうだった。
「よいしょ……っと。ほら、お前も入っておいで」
「あ、ああ……」
言われるまま、アクセルも四つん這いになって洞窟の中に入っていく。
入口は非常に狭かったものの、中に入るとだいぶ広くなり、直立する余裕が出てきた。
――しかし、これは確かに真っ暗だな……。
入口が小さいので、明かりはそこからしか入って来ない。奥に行ってしまったら、本当に光の届かない真っ暗闇になるだろう。
「洞窟は一本道だからね。ここ触りながらずーっと行けば出口に着くよ」
兄がアクセルの手を取り、洞窟の壁に当ててくれる。暗くて道がわからないので、感触を頼りにして行けということなのだろう。
「私は出口で待ってるからね。頑張って」
薄暗い中で応援のキスをしてから、兄は四つん這いになって入口から出て行った。
――よし……行くか。
気合いを入れ直し、アクセルは片手をつきながら洞窟の奥へと進んだ。
どのくらい歩いたかわからないが、数分も歩くと光が全く届かなくなり、完全な暗闇となった。洞窟内も非常に静かで、自分の足音でさえもハッキリ聞こえない。
――視覚が役に立たないって、思ったより怖いな……。
視覚は、自分が得られる情報の中で七、八割を占めているという。視覚があるからこそ、相手がどんな顔をしているか、ここはどんな景色なのか、本には何が書いてあるか……等々、そういった情報を得られるのだ。
それを遮断されてしまっては、今歩いている場所もわからないし、自分がどんな状況になっているかもわからない。その「わからない」という恐怖と戦いながら、それでも自分の足を動かし続けないといけないのだ。
――これが、あと二十四時間続くのか……。
いささかの不安を抱えながら、アクセルは前に進み続けた。
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