295 / 2014

第295話

「ああ、大丈夫だよ。中は普通の大きさだからさ」  そう言って、兄が四つん這いになって中に入っていく。細身ではあるものの兄もそこそこ背が高いので、腕や脚が引っかかって大変そうだった。 「よいしょ……っと。ほら、お前も入っておいで」 「あ、ああ……」  言われるまま、アクセルも四つん這いになって洞窟の中に入っていく。  入口は非常に狭かったものの、中に入るとだいぶ広くなり、直立する余裕が出てきた。  ――しかし、これは確かに真っ暗だな……。  入口が小さいので、明かりはそこからしか入って来ない。奥に行ってしまったら、本当に光の届かない真っ暗闇になるだろう。 「洞窟は一本道だからね。ここ触りながらずーっと行けば出口に着くよ」  兄がアクセルの手を取り、洞窟の壁に当ててくれる。暗くて道がわからないので、感触を頼りにして行けということなのだろう。 「私は出口で待ってるからね。頑張って」  薄暗い中で応援のキスをしてから、兄は四つん這いになって入口から出て行った。  ――よし……行くか。  気合いを入れ直し、アクセルは片手をつきながら洞窟の奥へと進んだ。  どのくらい歩いたかわからないが、数分も歩くと光が全く届かなくなり、完全な暗闇となった。洞窟内も非常に静かで、自分の足音でさえもハッキリ聞こえない。  ――視覚が役に立たないって、思ったより怖いな……。  視覚は、自分が得られる情報の中で七、八割を占めているという。視覚があるからこそ、相手がどんな顔をしているか、ここはどんな景色なのか、本には何が書いてあるか……等々、そういった情報を得られるのだ。  それを遮断されてしまっては、今歩いている場所もわからないし、自分がどんな状況になっているかもわからない。その「わからない」という恐怖と戦いながら、それでも自分の足を動かし続けないといけないのだ。  ――これが、あと二十四時間続くのか……。  いささかの不安を抱えながら、アクセルは前に進み続けた。

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