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第300話(フレイン視点)
ミューが軽い口調で言った。
「ロキ様、アクセルみたいな人、大好きだと思うなー。とってもいじめ甲斐がありそうだもん。もし人質に選ばれたら、一年後にはボロボロになって帰ってきそう」
「そうならないように、今のうちにメンタル鍛えているんだよ。一年間、ロキ様にいじめられても耐えられるように」
「えー? アクセルがメンタル鍛えてるのは、狂戦士モードをコントロールするためじゃないのー?」
「もちろんそれもあるけど、心をたくましくするのは必要なことさ」
「んー、そっか。まあ今の状態で人質に選ばれたら、一ヶ月も経たないうちに心が折れそうだもんねー。たくましくなるのはいいことだよね」
「そうだね……」
フレインは曖昧に微笑んだ。
――もしアクセルが選ばれても、私は応援することしかできないけど……。
どんなに強くなったところで、所詮自分たちはオーディンの眷属 。仲間内の諍いならどうにでもなるが、神々が決めたことには逆らえない。人質として選ばれてしまったら拒否することはできず、何も言わずに一年間耐えるしかないのだ。フレインもかつて選ばれたことがあるから、その理不尽さはよく理解している。
ならばせめて手紙くらいはマメに書いてやろう、と思った。自分は筆まめとは程遠い性格だけど、弟を元気づけるためなら毎日でも筆をとれる気がする。
もちろん選ばれないのが一番いいが、いざ選ばれた時に困らないよう、今のうちに心の準備をしておくことは重要だ。
――あの子が洞窟から帰ってきたら、それとなく話してみようかな。
洞窟踏破前のアクセルだったら泣いて嫌がるかもしれないが、踏破した後なら「一年くらい耐えてみせる」と言ってくれるのではないか。そうであって欲しい……。
フレインはユーベルが淹れてくれたお茶を飲んだ。何故かいつもより苦味を強く感じた。
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