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第301話

「はあ……はあ……」  自分すらも見えない暗闇の中で、アクセルは荒っぽい息を吐いた。  もうどのくらい歩いたかわからない。出口まであと何メートルなんだろう。今は何時なんだろう。朝なのか、夜なのか。そういった基本的な情報も得ることができない。  ――ゴールが見えない状況で頑張るのって、思った以上にしんどいな……。  あそこまで走ればゴールだとわかっていてランニングするのと、「とりあえず走っとけ」と命令されるのとでは、モチベーションがまるで違う。目的地が見えない状況でそれでも同じことを繰り返すというのは、相当の根気が必要なのだと実感した。  それに、今は物理的な意味でも目的地が見えない。真っ暗な中を手探りで進むのは、想像以上に神経が磨り減るものだった。足元の石に躓いたことも一度や二度ではないし、緊張の汗が滲んで下着が気持ち悪いことになっている。  自分の歩く音が洞窟の内部に反射し、四方八方から鼓膜に入って逆に混乱しそうだった。脈拍も、最初に比べるとかなり大きくなっていて、全身が心臓になったみたいにドクンドクンと脈打っている。 「っ……!」  顎から落ちた汗がピチャン、と洞窟内に乱反射し、アクセルは驚いて飛び上がりそうになった。こんな小さな物音など普段なら一切気にしないのに、ここまで過剰に反応するということは、神経が過敏になっている証拠だ。  大丈夫だろうか。本当に無事生還できるだろうか。万が一、洞窟内で野垂れ死んだら、俺は一体どうなるのだろう。  というか、このままだと近いうちにおかしな幻覚・幻聴も起こりそうで……。 「アクセル」 「っ……!?」  不意に、耳元で兄の声がした。びっくりしてそちらに目をやったが、当然のことながら何も見えない。目の前は真っ暗なままで、手探りしても岩壁しか見つけられなかった。  ――やばい、幻聴が聞こえてきた……。  自分以外は誰もいないのに。まさか兄が後ろからこっそりついてきているわけでもなかろう。兄が洞窟から出て行くのは、この目でしっかり確認したはずだ。  兄の声が聞こえてしまうほどに、自分は追い詰められているのか……。

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