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第302話
「ねえアクセル、お前は知ってる? 私がお前のことをどう思っているか」
アクセルは幻聴を無視して歩き続けた。この声に一度でも反応したら、二度と洞窟から出られないような気がしたのだ。
「もちろん、今はとっても可愛く思ってるよ。でも昔はそうじゃなかった。お前がうちに来たばかりの頃は『この子は誰なんだろう』って不審に思ったものさ」
「……!?」
それは一体どういう意味だ。「お前がうちに来たばかりの頃は~」って、まるで他所から連れて来られたような口振りではないか。俺と兄上は仲のいい兄弟なのに、何故そんな幻聴が聞こえてくるんだ。
「だってそうだろう? お前、あまりにも私と似ていないんだもの。見た目も似てないし、性格も正反対だし。血が繋がっていないんじゃないかって思っても不思議はないよね。弟は欲しかったけど、『こんな子、私の弟じゃない』って何度も思ったよ。いっそのこと、斬っちゃおうかと思ったこともあったねぇ」
「っ……」
そんなの嘘だ、と怒鳴りかけて、すんでのところで堪える。
反応しちゃダメだ。無視を貫き通すんだ。こんな幻聴に惑わされてはいけない。幻聴は全て嘘なのだ。あの兄が、自分をそんな風に思っているわけないじゃないか……。
「だけどお前ときたら、一切疑うことなく私を本当の兄だと思い込んでるし。『兄上、大好き』ってすごく懐いてくるし。何なんだろうね、お前は。自分とお兄ちゃんが似てないって、全然疑問に思わないわけ? 自分がどこから来たとか、自分は何者なのかとか、そういうこと全く考えないの?」
「…………」
「ある意味、究極の幸せ者だね。自分が何者かも考えず、ただ憧れの人を追いかけているだけでいいんだから。腕っぷしが強くなってランクが上がっても、お前はまだ何者でもない。兄と対等になりたいと望みながら、心のどこかでは既に白旗を上げきっている。それに気付いてもいない。だからいつまで経っても強くなれないんだ」
「……っ……」
痛いところを突かれ、アクセルは息を呑んだ。
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