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第303話

 兄と血が繋がっていない云々のところは嘘だろうが、それ以外はほとんど図星である。早く兄に追いつきたい、対等な関係になりたいと思っているのに、心のどこかで「永遠に敵わない」と諦めているのだ。  何しろ兄はアクセルが物心ついた時から――いや、この世に生まれ落ちた瞬間から「目上の存在」として側にいた。それが当たり前だったから、「兄が上で、自分は下」という意識が、骨の髄まで沁み込んでしまった。どんなに追いかけても追いついた気がしないのは、おそらくそれが原因だろう。  ――でも……それなら一体どうしろって言うんだよ……。  兄はいつまでも兄であり、弟はいつまでも弟である。立場が逆転することはないし、変えることもできない。絶対的な上下関係が既に存在している以上、今から新たな関係を構築し直すのは不可能に近いのではないか。  でも……でも、それでは……。 「別にいいんじゃない? どうせお前は私には勝てないんだから。対等な関係にはなれないけど、高望みしなければ今のままで十分幸せでしょ? 身の程を知ることも大切なことだよ」 「…………」 「だいたい、今更私と対等な関係になってどうするの? 今までずっと上下関係ありきでやってきたじゃないか。それをぶち壊したら、今までの絆も全部パーになっちゃうよ? お前はお兄ちゃんとの関係を清算したいの?」 「っ……」  何も言えなかった。アクセルは心の中で、言われた言葉を反芻した。  ――今のままでも十分幸せ……か。  確かにその通りだ。死に別れた兄と再会できたし、生前では叶わなかった想いも伝えることができた。肉体的な繋がりもできて、絆もずっと強くなった気がする。  アクセルはもう、十分幸せなのだ。これ以上何が必要なのだろう。兄と自分はヴァルハラで幸せに生きている。それでいいじゃないか。  だったら、何故自分は強くなろうとしているのか。こんな危険な洞窟に入って、幻聴に悩まされてまで強くなる理由は何なのだろう……。

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