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第304話

 ――わからないよ、兄上……。  もう何もわからない。どうしていいかわからない。できることなら今すぐここから出て、兄に縋りついて泣きじゃくりたかった。  神経がすり減り、心が弱り、今の状況に挫けそうになると、思考もネガティブな方向に傾いていく。例え聞こえてくるのが幻聴だとわかっていても、それを真に受けて余計に悩み、心がぽっきり折れそうになる。 「というかさ、もう私をお兄ちゃんだなんて思わなくていいんじゃない? そういう風に妄信してるから、余計に苦しくなるんでしょ? 兄弟であろうと他人は他人。というか、私はお前のこと完全に他人だと思ってるし」 「えっ……!?」  思わず声が出てしまった。あまりに動揺して指先から徐々に血が引いていった。 「だってそうでしょ? あまりに似てないし、性格も正反対すぎて共通点がほとんどない。血が繋がってるって主張する方が無理があるよ」 「っ……」 「だからさ、お前も今度から『兄上』じゃなく『フレインさん』って呼んでみたら? 所詮他人なんだからその方がいいでしょ? 兄弟の血に縛られるより、そっちの方がよっぽど自由に生きられる」 「…………」 「ね? もう兄弟なんてやめちゃおう? お互い、他人として生きよう? この洞窟を出たら私とお前は他人同士だ。いいよね?」  聞くに耐えなくて、アクセルは無我夢中で走り出した。幻聴から逃げるように、とにかく前へ前へ進んだ。  ――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……! それだけは絶対に嫌だ!  兄弟をやめるなんて。俺と兄上が他人になるなんて。  誇れるところがほとんどない自分にとっては、兄だけが唯一の自慢なのだ。兄と兄弟でなくなったら、自分は本物のミソっかすになってしまう。  それに……。 「うわっ……!」  石に躓き、暗闇の中で盛大に転倒してしまった。膝を擦りむき、額を強打し、他にもいろんなところをぶつけてしまう。

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