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第306話
アクセルは今まで、自分のことをあえて考えないようにしてきた。あまり深く考えると兄との差を嫌でも認識させられてしまって、自分の未熟さや至らなさで押し潰されそうになるからだ。
こんなに出来の悪い自分は、兄の隣に立つ資格はないんじゃないか。自分は兄の弟失格なんじゃないか。本当に兄は、こんな自分を愛してくれているのだろうか……。
自分に自信がないあまり、兄の愛情すら疑ってしまうことにも嫌気が差す。
――比べるのはやめなさいって、兄上にも言われてたのにな……。
どうしたらこの性格を変えられるのだろう。どうしたらもっと自信が持てるのだろう。どうしたら兄にふさわしい弟になれるのだろう……。
「お前、『性格変えたーい』とか思ってない?」
再び幻聴が聞こえてきた。どうせロクなことを言われないからと、アクセルは無視して歩き続けた。
幻聴がからかうように言葉を投げつけてくる。
「性格を変えるのは無理だよ。それは生まれもっての素質だからね。真面目でネガティブな人はいつまで経ってもそのまま。自分の容姿を変えられないのと同じさ」
「っ……」
やはりロクなことを言ってこない。というか、兄の声で「無理」とか断言しないで欲しかった。
ますます心が折れそうになり、アクセルは声も出さずに泣いた。
「だけど、考え方は変えられる」
「……!」
「元があまりよろしくなくても、化粧や服装でどうにでもなる女性っているでしょ? 顔は変えられなくてもファッションは変えられる。だから元の性格は変えられなくても、考え方は変えられるはずなんだ」
「…………」
「お兄ちゃんはお前のこと大好きだから、もっとちゃんと強くなって欲しいんだよね。兄に依存するだけの弟なんていらないし。せっかく洞窟に入ったのに、何にも成長せずに帰ってきたら、私はお前を見限るかもしれない。覚悟しといてね」
「…………」
この幻聴は本当にわけがわからない。アクセルを惑わすようなことを言ったかと思えば、アドバイスのようなことも言ってくる。わざと心を折るようなことを言う反面、期待しているようなことも言う。話もあちこち飛びまくりで、主張もむちゃくちゃだ。
でも……。
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