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第307話
――そうだな……少しは強くなって帰らなきゃ……。
幻影の発言が嘘か本当かなんて、この際どうでもいい。自分は強くなるために洞窟に入ったのだ。全く収穫なしで泣いて帰ったら、何のためにこんなことをしているのかわからない。兄にも呆れられてしまう。
再度己を奮い立たせ、アクセルは前に進んだ。
悩ましいところはたくさんある。どうしたらいいのかわからないことも多い。
それでも、前には進まないといけない。悩んで悩んで悩みまくって、結果的に答えが出なくても、前進しなければならないことはある。
これはもう成長というより開き直りだ。だが、そうでもしなければ生きて帰れない。光の届かない無音の洞窟で、誰にも気づかれないまま死んでしまう。
生きるか死ぬかの究極の場面では、細かい悩みなんて抱えていられないのだ。「何でもいいから生きる!」……これに尽きる。ごちゃごちゃ悩むのは、無事に洞窟から出られてからにしよう。
――それにしても、今どの辺なんだろう……。
壁に手をついて歩いていると、岩肌の感触が徐々に変わっていくのがわかる。歩き始めの頃は細かい砂や石が多くて、しばらく進んだらゴツゴツと荒っぽいものに変わり、今は少しなめらかな手触りになってきた。岩肌の特徴で、今どの辺りを進んでいるのかなんとなくわかるのかもしれない。
――もう折り返し地点は過ぎたんだろうな……。
だったらあと少しだ。あと少し頑張れば出口に到着する。
アクセルはもう一度気力を振り絞って歩き出した。既に結構な時間が経っているのか、空腹がひどい。疲労も溜まっているし、早く帰ってベッドで休みたかった。人間の三大欲求は食欲・睡眠・性欲だと言うけれど、こういう時でも空腹や眠気は感じるらしい。
兄の手料理が食べたい。塩にぎりでもハチミツトーストでも、簡単なものでいいから用意しておいて欲しい。浴槽にお湯を張っておいて欲しい。綺麗な寝間着を用意して、ベッドもふかふかに整えておいて欲しい。それから、それから……。
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