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第308話
洞窟を進むにつれて、細かい悩みも消え、「ご飯食べたい」、「早く帰りたい」、「ゆっくり眠りたい」という単純な欲求だけになっていく。肉体的にも精神的にも疲労して、複雑なことを考える余裕がなくなってきたのだ。
――水だけでもいいから飲みたい……。
何時間も飲まず食わずで砂っぽい洞窟を歩いてきたから、いい加減干からびそうだ。出口はまだなのか。そろそろ薄い光くらい見えてきてもいいんじゃないか。
もうそろそろ限界……と視線を落とした時、自分のブーツの先が何となく見えた気がした。あれ? と顔を上げたら、岩肌の形がほんの薄っすら見え始めていた。
今まで一寸先ですら何も見えていなかったのだが、目を凝らせばほんのわずかに砂の様子が確認できる。
ということは……。
――もうすぐ出口だ!
アクセルは無我夢中で駆け出した。
あと少し。あと少しで外に出られる。光と音のある世界に帰れる。
気持ちが逸るあまり、何度も躓いて転びそうになった。細かい砂利が飛んできて、全身が更に砂っぽくなったけれど、これで外に出られると思えばそんなことはどうでもよかった。
やがて、入口と同じような穴が開いている場所に辿り着いた。またもや高さはアクセルの膝くらいまでしかなく、四つん這いにならないと通れなさそうだった。
早速四つん這いになり、身体を縮めて穴を通り抜ける。ほとんど真っ暗な場所からいきなり外に出たので、目が眩んで前が見えなかった。
どうにか目を鳴らし、周りを確認したのだが、
――……あれ?
何だか妙に見覚えのある場所だ。目の前にはピクニックが出来そうな原っぱがあって、周りは森――いや、山。この洞窟の出口だけは岩肌が剥き出しになっていて、広場の隅に存在している。
入口がある場所とそっくりなのだが……。
「あ。おかえり、アクセル。早かったね」
近くの切り株に座っていた兄が、立ち上がってこちらにやってくる。
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