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第309話
「兄上……?」
今度は幻覚を見ているのかと思い、近づいてきた兄をペタペタ触ってみた。顔だけでなく腕や身体、太ももまでまんべんなく触ってみる。
兄がやや困惑したように苦笑した。
「えっと……お兄ちゃん触るの、面白い?」
「よかった……本物だ……」
確認した途端、ふっ……と力が抜けてしまい、アクセルはがくりと膝を折った。
「おっと、大丈夫かい?」
「ああ……なんとか……」
兄の腕に縋り、よろよろと彼にしがみつく。一度気が抜けたら立ち上がる気力も湧いて来なくて、アクセルは顔を擦り寄せて呟いた。
「……水が飲みたい」
「ああ、わかってるよ。ちゃんと持ってきてあるからね」
そう言って兄は、ボトルの蓋を開けてこちらに差し出してきた。
アクセルはそれを奪うように受け取ると、がぶがぶと飲み干した。常温の水かと思いきや、程よく冷えている上に甘酸っぱい味がついていた。
「……美味しい! 何だこれ!?」
「冷たい水に、ハチミツとレモンと……それにちょっとだけ塩を加えた飲み物さ。喉が渇いた時にぴったりだろう? たくさん持ってきたから好きなだけ飲んでいいよ」
「ありがとう、兄上……」
一気にボトル一本を空けてしまい、すぐさま二本目のボトルに口をつける。普通の水よりぐんぐん身体に沁み込んでいく感じがして、とても飲みやすく美味しかった。
いつも大雑把な兄が、こういう時だけは細やかな気遣いを見せてくれてすごく嬉しい。
「はぁ……っ」
二本目のボトルをほとんど飲み干し、ようやく一息ついたところで、アクセルは再びぐったりと兄に寄りかかった。十分な水分をとってハチミツの糖分も摂取したら、何だか猛烈に眠くなってきた。
「兄上、眠い……」
「そうだよね。早く帰ろうか。家まで送っていってあげるよ」
「……俺の家じゃなくていい……。兄上の家がいい……」
「おや、そうかい? じゃあ私の家に行こうか」
「ん……」
ふらふらしながら、アクセルは兄と一緒に山を下りた。足元が怪しかったので、見かねた兄が腕を貸してくれた。その気遣いもありがたかった。
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