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第310話

「兄上……」  今思えば、疲れているからこそ、何も考えずに素直に聞けたのかもしれない。  アクセルは呟くように尋ねた。 「あなたは……俺の兄だよな……?」 「えっ?」 「俺たち、正真正銘の兄弟だよな……?」 「何言ってるの? 当たり前じゃないか。私は、母上の腹からお前が出てきたのをちゃんと見てるんだよ?」 「そうか……そうだよな……よかった……」  それを聞いて安心した。やはり幻聴は幻聴だったのだ。あれは全部嘘だったのだ。鵜呑みにして信じなくてよかった……。 「洞窟でそういう幻聴でも聞いたのかい?」 「ああ……とても嫌なことを言われた……。幻聴だとわかっていても不快だった……」 「そっか……。でも、ちゃんと耐えられたんだから偉いよ。またひとつ強くなったね」 「……だといいな……」  耐えられたというより、「開き直って逃げてきた」に近いかもしれないが。  ――どのくらい強くなったか、後で兄上に試してもらいたいな……。  まずはゆっくり休んでから。アクセルはほとんど無心状態で、兄の家までついて行った。  家に上がった途端、再び猛烈な眠気が襲ってきたが、どろどろのままベッドに入るわけにはいかなかったので、浴室を借りて湯浴みすることにした。  無造作に服を脱いだら、思った以上に薄汚れていて、自分がどんなひどい状態で帰ってきたのかを今更ながら自覚した。愛用の手袋も茶色く汚れていた。こんな手で兄をベタベタ触ってしまい、申し訳なく思う。  頭から湯を浴び、石鹸等を使って丹念に全身の汚れを洗い落とし、再び頭から湯を浴びて、一度浴槽に入った。手足を伸ばしてリラックスしていたら一瞬意識が途切れてしまい、危うく風呂の中で寝そうになった。これはマズいと思い、さっさと浴室を出ることにした。 「さっぱりしたかい?」  風呂から出たら、兄がにこやかに話しかけてきた。それを見たら、何だかとてもホッとした。

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