310 / 2202
第310話
「兄上……」
今思えば、疲れているからこそ、何も考えずに素直に聞けたのかもしれない。
アクセルは呟くように尋ねた。
「あなたは……俺の兄だよな……?」
「えっ?」
「俺たち、正真正銘の兄弟だよな……?」
「何言ってるの? 当たり前じゃないか。私は、母上の腹からお前が出てきたのをちゃんと見てるんだよ?」
「そうか……そうだよな……よかった……」
それを聞いて安心した。やはり幻聴は幻聴だったのだ。あれは全部嘘だったのだ。鵜呑みにして信じなくてよかった……。
「洞窟でそういう幻聴でも聞いたのかい?」
「ああ……とても嫌なことを言われた……。幻聴だとわかっていても不快だった……」
「そっか……。でも、ちゃんと耐えられたんだから偉いよ。またひとつ強くなったね」
「……だといいな……」
耐えられたというより、「開き直って逃げてきた」に近いかもしれないが。
――どのくらい強くなったか、後で兄上に試してもらいたいな……。
まずはゆっくり休んでから。アクセルはほとんど無心状態で、兄の家までついて行った。
家に上がった途端、再び猛烈な眠気が襲ってきたが、どろどろのままベッドに入るわけにはいかなかったので、浴室を借りて湯浴みすることにした。
無造作に服を脱いだら、思った以上に薄汚れていて、自分がどんなひどい状態で帰ってきたのかを今更ながら自覚した。愛用の手袋も茶色く汚れていた。こんな手で兄をベタベタ触ってしまい、申し訳なく思う。
頭から湯を浴び、石鹸等を使って丹念に全身の汚れを洗い落とし、再び頭から湯を浴びて、一度浴槽に入った。手足を伸ばしてリラックスしていたら一瞬意識が途切れてしまい、危うく風呂の中で寝そうになった。これはマズいと思い、さっさと浴室を出ることにした。
「さっぱりしたかい?」
風呂から出たら、兄がにこやかに話しかけてきた。それを見たら、何だかとてもホッとした。
ともだちにシェアしよう!