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第311話(アクセル~フレイン視点)
「ご飯どうする?」
「食べる……が、寝てからでいいか?」
「うん、いいよ。起こさないから好きなだけ寝なさい」
「ありがとう、兄上……」
深く考えることもなく、アクセルは兄のベッドに入って薄い掛け布団を被った。大好きな兄の香りに包まれて、ますます安心してしまった。
目を瞑った途端すぐさま意識を失い、そのまま自然と目覚めるまで爆睡した。
***
「ありゃ、もう寝ちゃったよ」
フレインは少し笑いながらベッドを覗き込んだ。弟は安心しきったような顔で眠っており、頬をつついたくらいでは全然起きなかった。
そんなベッドのど真ん中で寝られては自分が寝るスペースがなくなってしまうのだけど、あまりにすやすや寝ているのでこのままにしておくことに決めた。自分は床か、あるいはソファーで眠ればいいや。
「お前、洞窟で何を見てきたんだい?」
返事のない問いかけをしてみる。
光も音も届かない洞窟では、嘘か本当かわからないようなことが起こる。それは入った人によって様々だが、大抵の人は摩訶不思議な経験をして戻ってくるのだ。
今回弟はフレインの幻聴を聞いてきたようだが、フレインが洞窟に入った時は忘れかけていた過去の出来事が甦ってきた。生前、自分が誰に負けて死んだのか、それを無理矢理思い出す羽目になったのだ。あれはきつかった。
――普通の相手だったら、正面から滅多切りされることもなかったんだろうけど……。
当時はわからなかったが、今ならわかる。自分を殺したのは、アース神の世界 の神だった。
オーディンは戦死した強者を集め、眷属 としてヴァルハラに住まわせている。来たるべき最終戦争 に備えるために、地上の強者を自らの意思で殺すこともあるそうだ。
地上で戦争が起こるのも、オーディンがわざと争いを引き起こしているせいだと言われている。
「……まったく」
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