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第312話(フレイン視点)
オーディンを筆頭としたアースガルズの神々に、駒のように扱われているのはいい気分にはならない。神々にとって元人間のエインヘリヤルなど、「どうにでもなる存在」なのだ。
ヴァルハラ自体は楽しいし、生前には叶わなかったこともたくさんできているけれど、だからと言って神々に従うしかない状況は、あまり愉快なものではなかった。いつまでこの生活が続くかも謎だ。
それに……。
――普通に殺しに来なかったから、余計に腹が立つよね。
ただ単に神に負けただけなら、ここまで根に持つことはなかった。
それが、正体を隠した上、別の人間に変身して襲ってきたから腹立たしいのだ。神の力と武器をもってすれば、人一人殺すのに大した手間はかからないのに、わざわざ騙し討ちのようなことをしてきたところが、不愉快極まりなかった。
何しろフレインを殺した神は、あろうことか可愛い弟 の姿をしていたから……。
――本当に……神なんてロクなもんじゃない。
どうにかならないのか、と思う。最終戦争だかなんだか知らないが、そんなもの神々の勝手な都合じゃないか。我々には関係ない。
それに、人質交換の件も気に食わないことばかりだ。アースガルズとヴァナヘイムが勝手に取り決めたなら、それはそちらで勝手に処理して欲しい。エインヘリヤルを巻き込まないでくれと思う。
私はただ、可愛い弟と平和に暮らしたいだけなのに……。
「ラグナロクが始まったら、こっそりヴァルハラを出ちゃおうか。ねえ、アクセル?」
つんつん、と頬をつつきながら囁きかける。弟は完全に熟睡しており、呻き声すら上げてくれなかった。起きている時も可愛いけれど、寝顔はまた違った可愛さがある。
――まあ、それはまたおいおい考えようか。
まずは目覚めた弟のために、食事の準備をしないと。
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