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第314話(フレイン視点)
「本当はアクセル本人に渡そうと思ったんですけど、家に行ってもいなかったので。あなたに渡した方が早いかなと思いまして」
「これは……?」
訝しげに封筒を受け取り、表に書かれている字に目を通す。そこには「アクセル殿」という宛名と共に、「人質交換の件について」という表題がついていた。
――ああ、やっぱり来てしまったか……。
ある程度覚悟していたとはいえ、気は進まなかった。
せっかくヴァルハラに来たのに、一年間も離れ離れで過ごさなければならない。その上、送られた先の「当たり・はずれ」が大きい。比較的平穏に過ごせる時もあれば、地獄のような環境に耐えなければならないこともある。こちらに選択権はないので、完全な運任せだ。
――これだから、神なんてロクなもんじゃないんだ……。
せめて「当たり」の年だといいな、と思った。当たり年なら、送られた先でも比較的自由に過ごせる。必要以上に拘束されず、最低限の責務さえ果たせばあとはヴァルハラと同じように生活できるという。
ちなみに、フレインが人質に選ばれた時は――どちらかというと、「はずれ」に近かったのではないだろうか。肉体的な労働はごく普通だったが、神々の慰み者にされたのは屈辱だった。容姿がよすぎるのも考え物だなと思ったものだ。
可愛い弟が同じような目に遭ったらと思うと、それだけで発狂しそうになる。
「…………」
フレインはちょっと躊躇ってから、弟宛ての封筒の封を破った。チェイニーがやや呆れて言った。
「……アクセル宛ての手紙ですよ?」
「いいの。私はお兄ちゃんなんだから、確認する権利はある」
「はあ、そうですか……」
「弟がいつどこに送られるかくらい、把握しておきたいでしょ。変なところに飛ばされたら嫌じゃないか」
「もちろん嫌ですよ。でも、こちらから異議申し立てはできません」
「わかってるさ。だからもし変なところだったら、交換当日までに心の準備をさせておかないと」
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