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第315話(フレイン視点)

 当たりの場合は問題ないのだ。一年間会えない寂しさはあるけど、変な心配はしなくて済む。手紙を送り合えば寂しさも多少は埋められるだろう。  問題は「はずれ」だった場合だ。そこがどんな場所かをあらかじめ勉強し、弟に心の準備をさせなければならない。何の予備知識もなくいきなりひどい場所に放り込まれたら、繊細な弟は途中で耐えられなくなってしまう。  ――それで、一体どこに送られるんだろう?  フレインは中に入っていた何枚かの手紙を取り出し、さっと目を通した。面倒くさい契約書よろしく細々(こまごま)した説明が書かれており、見ただけで読むのが億劫になった。  その中から、苦労して弟の行き先を探し出した結果……。  ――おや、これは……?  あまりに意外で二度見してしまった。弟の行き先は、アース神族を代表する神・バルドルのところだった。神々の中で最も賢明で美しく、光り輝く美貌を持ち、雄弁で優しいと言われている。  ――ええ~……? これ本当?  どうにも信じられず、フレインは顔を上げてチェイニーを見た。 「ねえ。この書類、名前が間違ってるってことある?」 「ないと思います。ヴァルキリーたちが検閲しているものですし、公的な文書に誤字脱字があったことは一度もなかったかと」 「だよねぇ……」  フレインは再び手紙に目を落とした。何度見ても「光の神・バルドル」と書かれており、以後もずっと「バルドル」と表記されていた。誤字ではなさそうだった。  ――ヴァン神族の誰かに送られるならわかるけど、何でアース神族に……?  ヴァルハラはアース神族側にある。アース神族の主神・オーディンの眷属なのだから当然だ。つまり人質がアース神族の元に行くということは、身内同士で人質を交換しあっているのと同じである。  人質はヴァン神族と交換するのではなかったのか。身内同士で人質交換なんて、そんなことをする意味があるのか。何のためにこんなことをしているのか。  ――神々のことだから、何か裏があるんじゃないの?

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