316 / 2200

第316話(フレイン視点)

 バルドルはオーディンの息子だ。父親の眷属を一人、意味もなく預かるとは考えづらい。これは何か、別の思惑があると考える方が自然だろう。情報が少ないので、現時点では何とも言えないけれど。  とはいえ、行き先だけで言うなら、考え得る中で最高の「当たり」だと思う。バルドルなら人質にも優しいだろうし、むしろ客人としてもてなしてくれるはずだ。その点に関しては心配していない。  だけど、気がかりであることは変わりない。  ――私もついて行きたいけど、こればかりはどうにもならないからね……。  内心で溜息をつき、フレインは顔を上げた。 「どうもありがとう。ちゃんとアクセルに届けるよ」 「お手間をかけてすみません。よろしくお願いします」  そう言って、チェイニーは立ち去って行った。  ――あの子、未だにアクセルのこと好きなのかな……。  以前、どこかで話しかけられた時、挑戦状的なものを叩きつけられた覚えがある。「あなたが手を出さないなら、もっとアタックしていいですよね?」みたいなことを言われた。あれが本気だったのか、それともフレインを焚きつけるための言葉だったのかは、イマイチよくわからない。  もっとも、本当にアクセルのことが好きだったとしても渡す気はないし、相思相愛だという自信もある。アクセルもフレインのことしか見ていないし、生まれてからずっと一途に想い続けてくれた。今更誰かが入る余地はない。  この愛はきっと変わらない。例えラグナロクがやってきても、ヴァルハラが滅んでも……永遠に。 「……おや」  ピーッ、という音が鳴り、洗濯ドラムが止まった。  フレインは早速蓋を開けてアクセルの服を取り出した。さすがは魔法の洗濯ドラムと言うべきか、まるで新品のようにピカピカになっている。  洗いたての服を、丁寧に畳んでフレインは両手で抱えた。黒がベースのすらりとした戦闘服は、真面目なアクセルによく似合っている。お揃いとまではいかないが、ところどころ自分の服とデザインが似ているところも、また愛おしかった。

ともだちにシェアしよう!