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第318話(フレイン視点)

 ――というか、そろそろ起きた方がよくないかな……。  蓋を閉め、弟の様子を窺いに行く。  アクセルは相変わらずベッドで爆睡しており、頬をつついても微動だにしなかった。 「おーい、アクセル。そろそろ起きないかい? 明日は死合いがあるんじゃないの? その前に狂戦士モードを身に付けられたか、確認したいんじゃなかったっけ? あとね、お兄ちゃんお前にいろいろ話があるんだよ。人質交換の件とかさ」  軽く揺すって起こそうと試みる。だが予想に反して弟はなかなか起きてくれず、寝返りを打ってこちらに背を向けてしまった。  寝起きがいい弟にしては珍しいが、自然に起きるまで寝かせておくわけにもいかない。死合いもあるし、この後のスケジュールは目白押しなのだ。ここは無理矢理にでも起こさなくては。 「……アクセル、あんまり無防備に寝てると食べちゃうよ?」  と、耳元で妖しく囁いてみる。  ここで起きればそれでよし。本当に食べたりはしない……と思っていたが、残念ながら弟は起きてくれなかった。  ――寝ている時でも、音は聞こえているはずなんだけどなぁ……。  眠っている時、人体は最も無防備な状態になる。どんな強者でも寝込みを襲われると弱いというのはそのためだ。  だから人体は寝ている時でも周囲の音を聞いており、突然聞き覚えのない音が鳴ると、脳が「生命の危機だ」と判断して、自分自身を起こすのである。目覚まし時計のアラームで起きられるのも、おそらくそれが理由だろう。  逆に言えば「この音は敵ではない、安全だ」と脳が判断し続ける限り、身体が起きることはない。アクセルにとって「兄の声」は、「最も安心できる」音なのだ。  それは嬉しいが、それではフレインはどうやって弟を起こせばいいのだろう。フライパンとおたまを持って、カンカンと音を立ててやった方がいいだろうか。それとも……。  ――せっかくだし、ちょっと実験してみようかな。  フレインはニヤリと口角を上げ、弟がくるまっている掛け布団を剥ぎ取った。そしてもう一度アクセルの耳元に唇を寄せ、そっと囁いてやった。

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