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第324話*

「ありゃ……上手く解けない」 「えっ……!?」 「固いし、手がすべっちゃうんだ。そんなにきつく結んじゃったのかな」 「そっ……!? そんな、どうするんだよ……!」 「切ればいいだけのことだよ。ちょっと待ってね」  そう言って、兄はベッドから離れ、愛用の太刀を抱えて戻ってきた。  正気の沙汰とは思えなくて、さすがのアクセルもぞっとした。 「う、嘘だろ……!? 待ってくれ兄上、それは……!」 「大丈夫、お前のことは絶対斬らない。紐だけを切るから、安心して」 「そ、そんなこと言われても……」 「ほら、じっとしてて。おとなしくしてないと大事なところに怪我しちゃうよ」 「っ……!」  ギラリと光る刃が目に入り、一気に血の気が引いていく。  ――いくら何でも無茶だ……!  兄の腕がいいことは知っている。全面的に信頼もしている。  だけど、それとこれとは話が別だ。ほんの少しでも手元が狂えば紐ごと男性器がなくなってしまうような行為を、簡単に容認できるはずがない。万が一残念なことになってしまったら泉に入ればいい……などと兄は考えているのかもしれないけど、そういう問題ではないと思う。 「う……」  今までの興奮もすっかり冷め、アクセルは固く目を閉じて顔を背けた。腹の底から恐怖が沸き上がってきて、無意識に身体がカタカタ震える。緊張のあまり指先が冷え切り、握っているシーツの感覚がなくなってきた。  ――兄上ぇ……!  やるなら早くやって欲しい。こんな生理的な恐怖、いつまでも耐えられるものではない。洞窟を踏破してメンタルを鍛えても、こういうことは守備範囲外だ。  もし……万が一変なところが切れてしまったら、今後ずっと根に持ってやる……! 「アクセル、アクセル」  軽く頬を撫でられ、びくびくしながら目を開けた。涙で滲んだ視界に兄の顔が映った。

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