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第331話

「よし、できたかな」  兄がミトンを手に嵌め、鍋を下ろしてリビングのテーブルに持って行く。  できたてのミルク粥からはふわふわと湯気が立ち上り、食欲をそそる匂いも一緒に連れて来てくれる。 「じゃあ、冷めないうちにいただこうか」 「ああ、そうだな」  大きな木匙で粥を皿に盛り、テーブルに向き合って食べることになった。湯気の向こうに見える兄は、いつもより優しそうに見えた。 「あ、美味しくできてる。味付けもバッチリだよ」 「本当か?」  自分もスプーンで一口食べてみたら、懐かしい味が口に広がった。ミルクの甘さとチーズの塩気が絶妙で、喉越しも抜群である。もしかしたら、昔食べていたものより美味しいかもしれない。 「やっぱりお前は料理上手だね。人質先で変な肉体労働するくらいなら、料理番をしてた方がいいんじゃない?」 「そうかもな……。材料と道具さえ揃っていれば、料理番をするのもやぶさかではない」 「バルドル様のことだから、そういう方向でお前を使うかもね。それなら私も安心かな」 「食糧調達に駆り出されるよりマシってことか?」 「食糧調達はいろんな危険があるからね。イノシシに食われたり、ハチに刺されたりするよか、ずっといい」 「……そうだな。何かあっても、兄上を呼ぶわけにはいかないから……」  そっと視線を落とす。  今までは、ピンチの時は必ず兄が助けてくれた。呼ぶ・呼ばないにかかわらず、必ずすっ飛んできて助けてくれた。  でも、今回ばかりは兄を頼れない。強がりとかではなく、物理的に頼れない。自分のミスをカバーしてくれる人はおらず、全部自分だけで何とかしなければならないのだ。それは弟気質のアクセルにとって、一番不安になるところだった。  ――まあ、それでも何とかするしかないんだが……。  意地でも「大丈夫だ」と言っておかないと、兄が心配してしまう。先程心配しまくっていたのに、自分が不安そうな顔をするわけにはいかない。  アクセルはあえて笑顔を作り、顔を上げて言った。

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