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第333話

 チラリと兄の顔色を窺ったら、兄が軽く首をかしげてきた。 「どうしたの?」 「あ、いや……狂戦士モードの練習しないとなって」 「練習する? つき合おうか?」 「いや、うん……。それはありがたいんだが、また失敗したら大変だから」 「大丈夫だよ。お前、ちゃんと洞窟踏破してきたでしょ? 以前よりかなりコントロールしやすくなってるはずだよ。今度はあんな失敗しないって」 「でも万が一兄上を殺してしまったら……」  そう言ったら、兄は腰に手を当てて言った。 「おや、お前は狂戦士モードになれば私を簡単に殺せると思ってる? お兄ちゃんはそこまで弱くないよ」 「あ、ああ……それはその通りだが」 「それに、前回はわざとお前に斬られる方を選んだけど、今度はそんなことしないよ。お前も強くなったし、私も殺す気でやる。そうでないと練習にならないからね」 「兄上……」 「公式の死合いじゃないけど、本当の死合いだと思って本気でやろう? ね?」 「…………」  身体の芯が微かに疼いた。ベッドの上で触れられるのとはまた違った高揚感がアクセルを貫いた。  ――やっと兄上と本気で戦える……!  公式の死合いならよりよかったが、この際、贅沢なことは言っていられない。  昔の自分だったら返り討ちに遭うのがオチだったが、今なら互角に戦える気がする。肉を斬り、血を舐め、汗の香りを楽しみ、その命を全て味わいたい。お互いの全てを曝け出し、全てを自分のものにしたい。 「ああ、もちろんだ」  アクセルは笑顔で頷いた。兄もにこりと微笑んでくれた。  洗い物を片付け、一度自宅に戻って戦闘服に着替えに行った。黒ベースの衣装に二振りの小太刀、それに左右の肩当て。首には兄からいただいたお守りを下げるのも忘れない。  ――これでよし……。  準備を終えて家を出ようとした時、テーブルの上に一冊の本が置きっぱなしになっているのを見つけた。  そう言えば、洞窟踏破する前に図書館から本を借りてきたのを思い出した。結局まだ一ページも読めていないが、人質に行くことになるのなら、早めに返してきた方がいいかもしれない。興味をひく内容だけに、惜しいことをした。

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