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第334話

 ――向こうでも、本を読む機会があるといいな……。  そんなことを考えつつ、本を抱えてまず図書館に行く。そこで本の返却手続きをとり、改めて訓練場に向かった。  オーディンの館のすぐ近くにあるドーム状の建物だ。以前も一度だけ特別訓練のために訪れたことがある。その時は暴走してしまったが、今度はそんなヘマは犯さない。……多分。 「やあ、待ってたよ」  一足先に訓練場にいた兄が、軽く手を上げてくる。少し後ろには、背中に槍を差したジークが立っていた。  怪訝に思い、アクセルは眉を顰めた。 「……兄上、何故ジーク様がいるんだ?」 「そりゃあ、誰かに審判やってもらわないと訓練にならないからね。死合いだったら戦闘不能の判断はヴァルキリーが下してくれるけど、訓練は自分たちで判断しないといけない。かといって、私たちだけだと白熱しすぎて止まらなくなりそうだから、冷静な第三者に頼んだんだ」 「そうか……。しかしそれがジーク様というのは何故……」 「私の友人の中では、彼が一番公平だからさ」  それもそうか、と納得する。  ミューはペロペロキャンディーに夢中で訓練を見ていなさそうだし、ユーベルは一緒に乱入して踊り出しそうだし、ケイジはただひたすら修行のために瞑想していそうだし、ランゴバルトに至っては論外だ。  その点、ジークは勝負がついたと思ったら冷静に止めてくれそうな気がする。  ――とはいえ、個人的にはちょっと複雑なんだが……。  チラリとジークに目をやる。彼はいつもと変わらない雰囲気で、兄とルールについてあれこれ話し合っていた。こちらを意識している様子はなかった。  ――意識しているのは、俺だけってことか……。  あの人は兄と寝たことがある。当たり前の恋人同士ではなかったにせよ、兄の身体を知っている。  そういう意味では非常に複雑であった。過去に嫉妬しても仕方ないが、それでも兄が大好きな身としては、他の男の存在は気になってしまう。自分がいない間に、またジークと浮気されたらどうしよう……という不安もあった。

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