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第335話

 もう二度と他の男とは寝ない……なんて言っても実際何があるかわからないし、浮気とまではいかなくても性欲処理の関係で身体を繋げることもあるかもしれないし……。 「弟くん、どうかしたか?」  不意にジークに声をかけられ、アクセルは我に返った。考え事をしていて、すぐ隣までジークが接近していたことに気づかなかった。  そんなアクセルの心情を読んだかのように、腰に手を当ててジークは顔を近づけてくる。 「何の心配してるんだよ。今は変な心配してる暇はないだろ」 「変な心配って……。俺にとっては大事なことなんですよ」 「そうか。でも他のことに気をとられるのは賢明じゃないぜ。集中力を欠かした状態でコントロールできるほど、狂戦士は甘くないからな」 「……!」  そうだった。今は余計なことを考えている場合じゃない。下手に失敗したら、また兄を傷つけてしまう。そちらの方がずっと怖い。  ――何だか、本当に俺ばかりが未熟な気がしてくる……。  狂戦士モードをコントロールできていないのも自分だけ、ジークとの関係を気にしているのも自分だけ、人質に行くのも自分だけだ。自分ばかりが独り相撲をとっているような気がして、悔しくなるのと同時に情けなくもなってくる。  大変な思いをして洞窟踏破してきたのに、俺は何も変わっていないんじゃないか。全然強くなっていないんじゃないか。  これでまたコントロールを失敗して、今度こそ兄に愛想を尽かされたらどうしよう……。 「アクセル、大丈夫?」  今度は兄に声をかけられ、再び我に返った。 「何だか難しい顔してるね。緊張してるの?」 「あ、いや……そういうわけじゃないんだが」 「じゃあ、ボーッとしてないで集中しなさい。ジークの言う通り、集中力を欠かした状態じゃ狂戦士モードはコントロールできないよ」 「あ、ああ……」  兄の言う通りだ。あまり時間もないし、そろそろ集中しないとマズい。半端な気持ちで訓練に突入したら、また大失敗を犯してしまう。  ――だったら、いっそのことちゃんと釘を刺しておいた方が……。  心残りがあると、そちらばかりが気になって集中できない。  アクセルは兄に近付くと、ジークに聞こえないよう小声で言った。

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