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第340話※
途端、兄の雰囲気が一変した。柔らかな金髪がぶわっと逆立ち、全身から凄まじい殺気が迸る。
「ギェアアアァァ!」
兄が獣のような咆哮を上げた。狂戦士に変化する時、大抵は皆ああいった声を出す。身の内から沸き上がる興奮を抑え切れず、勝手に咆哮が上がってしまうのだ。
「さあ、お前も早く!」
「っ……!」
いきなり兄が距離を詰め、正面から切り込んでくる。その速さは先程とは比べ物にならず、こちらの防御が間に合わないほどだった。
「おわっ……!」
すんでのところで刃を受け止めたが、その太刀筋があまりに重くて、ぶつかった瞬間身体ごと吹っ飛ばされてしまう。
どうにか空中で体制を整えて着地したものの、地に足をつけた後もザザザ……と三メートルほど後退させられてしまった。
――やはり、狂戦士になった兄上は強いな……。
甘く見ていたわけではないが、改めて対峙するとその強さを思い知らされる。力もスピードも、まるで桁違いだ。狂戦士同士でないと太刀打ちできない。
「ふ……ふー……」
肩で大きく深呼吸をし、アクセルは自分自身を落ち着かせた。
大丈夫、俺は冷静だ。今度はノリと勢いだけで狂戦士になったりしない。どんなに興奮しても、頭が正常に動いていれば暴走することはないはず。
だから――きっと大丈夫だ。
「……タアアァァッ!」
身体の内側から闘志が漲ってきて、アクセルは声を上げながら兄に切りかかった。身体が軽くなり、今なら何でもできそうな気がしてくる。
ガキン、と武器同士がぶつかり合った。二度目のつばぜり合いが始まった。カチカチと細かな火花が散ったが、今度は押し負ける気がしなかった。
「ふふ、よくできました」
兄がにこりと微笑んでくる。
「本当ならここで『いい子いい子』って褒めてあげたいところだけど、今は訓練中だからね。ご褒美はこれが終わったらだ」
「……ああ!」
それを聞いて、また身体が興奮してきた。どんなご褒美をもらえるのか、想像しただけで滾ってきた。
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