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第344話

「さ、着いたよ」  オーディンの泉に到着した。  兄はアクセルを抱きかかえたままザブザブと泉に入っていくと、肩まで水に浸かって傷を癒し始めた。 「う……く、あ……」  アクセルは残った右腕で必死に兄にしがみついた。傷口に水が沁み込んで、一瞬意識が遠のいた。今更ながら、狂戦士モードを解除してしまったことが悔やまれる。 「ねえアクセル、今夜のご褒美は何がいい?」 「っ、は……っ?」 「後でご褒美あげるって言ったでしょ? 今夜はどうして欲しい?」  妖しげな響きに、思わず身体の芯が疼いた。  この言葉のニュアンスは……明らかにそういう方向のご褒美を指している。兄本人もわざとそう聞こえるように言っているみたいだった。  ――どうして欲しいって……それ、俺からリクエストしなきゃいけないのか……?  随分な羞恥プレイだ。例え二人きりでも、そんなの恥ずかしくて口に出せない。  アクセルは兄に抱きついたまま、呟くように言った。 「何でもいい……。兄上の、好きなように……」 「おや、本当? 本当に私の好きにしていいの?」 「いい……けど、寝込みを襲うのは勘弁してくれ……」 「ふふ、お前にはアレは刺激が強すぎたかな? じゃあ今夜は普通にやろうか。デロデロに甘やかしてあげるから、覚悟しといてね」 「っ……」  耳元でそんなことを言われ、かあっと全身が熱くなった。大きな期待とほんの少しの不安が混ざり合い、何と答えていいかわからなくなる。 「……兄上のエッチ」 「おや、そういうお前もかなりのすけべだけど」 「お、俺のせいじゃない……! 兄上がそう開発したんだ……」 「そうかもね。でも私の前では、すけべなところ見せちゃだめだよ。誰かに付け込まれたら大変だもの」 「……見せるわけないだろ、そんなの……」  そうやって会話を続けているうちに、いつの間にか痛みにも慣れた。というか、だんだん元の感覚が戻ってきた。  チラリと左腕に視線を落としたら、手首の辺りまで回復が進んでいた。完全に復活するまでもう少しだ。

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