344 / 2197
第344話
「さ、着いたよ」
オーディンの泉に到着した。
兄はアクセルを抱きかかえたままザブザブと泉に入っていくと、肩まで水に浸かって傷を癒し始めた。
「う……く、あ……」
アクセルは残った右腕で必死に兄にしがみついた。傷口に水が沁み込んで、一瞬意識が遠のいた。今更ながら、狂戦士モードを解除してしまったことが悔やまれる。
「ねえアクセル、今夜のご褒美は何がいい?」
「っ、は……っ?」
「後でご褒美あげるって言ったでしょ? 今夜はどうして欲しい?」
妖しげな響きに、思わず身体の芯が疼いた。
この言葉のニュアンスは……明らかにそういう方向のご褒美を指している。兄本人もわざとそう聞こえるように言っているみたいだった。
――どうして欲しいって……それ、俺からリクエストしなきゃいけないのか……?
随分な羞恥プレイだ。例え二人きりでも、そんなの恥ずかしくて口に出せない。
アクセルは兄に抱きついたまま、呟くように言った。
「何でもいい……。兄上の、好きなように……」
「おや、本当? 本当に私の好きにしていいの?」
「いい……けど、寝込みを襲うのは勘弁してくれ……」
「ふふ、お前にはアレは刺激が強すぎたかな? じゃあ今夜は普通にやろうか。デロデロに甘やかしてあげるから、覚悟しといてね」
「っ……」
耳元でそんなことを言われ、かあっと全身が熱くなった。大きな期待とほんの少しの不安が混ざり合い、何と答えていいかわからなくなる。
「……兄上のエッチ」
「おや、そういうお前もかなりのすけべだけど」
「お、俺のせいじゃない……! 兄上がそう開発したんだ……」
「そうかもね。でも私の前では、すけべなところ見せちゃだめだよ。誰かに付け込まれたら大変だもの」
「……見せるわけないだろ、そんなの……」
そうやって会話を続けているうちに、いつの間にか痛みにも慣れた。というか、だんだん元の感覚が戻ってきた。
チラリと左腕に視線を落としたら、手首の辺りまで回復が進んでいた。完全に復活するまでもう少しだ。
ともだちにシェアしよう!