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第346話
「…………」
アクセルはすいーっと兄の元に泳いでいき、背中から彼に抱きついた。自分の傷はもうほとんど治っている。
「兄上、怪我の具合は?」
「だいたい治ったかな。痕も残ってないし」
「そうか、よかった……。じゃあ、そろそろ出よう」
「うん、いいよ。でもその前に……」
何かと思っていると、兄は少し首を捻って斜めからこちらに口付けてきた。軽く啄む程度のものだったが、唇が濡れていつもより瑞々しく感じた。
「よし、続きは帰ってからね」
事もなげに微笑んでくるので、思わず顔が赤くなった。
――兄上はいつも俺を惑わせる……。
兄と思いが通じ合ってどのくらい経っただろうか。その間に何度も交わっているが、未だに慣れないところも多い。予告なしにいきなり挑まれて、困惑することもあった。今朝方寝込みを襲われたのはいい例だ。
それでも兄のことはずっと好きだし、憧れてやまない大切な人である。いつでも好きな時に会いたいし、本当は片時も離れたくない。
人質の件があるから一年間は強制的に離されてしまうけれど、せめてそれまでは何も気にせず一緒にいたいと思った。
二人で泉から出て、服が乾いたところで武器屋に向かう。ジークが壊れた武器を預けておいてくれたらしく、到着した頃には既に元通りに手入れがされていた。
――あの人も、いろいろ気が利くよな……。
自分たち兄弟に相当振り回されているだろうに、よくもまあ嫌がらずに付き合ってくれるものだ。……いや、多少は嫌な顔をしていたが、それでも拒否せずに審判を務めてくれたのは純粋にありがたいと思う。
次に、夕食の食材を軽く買い込んでアクセルは自宅に戻った。兄も当たり前のような顔をしてついてきた。この自然さが家族らしくて好きだ。
「んー……さっきはミルク粥を食べたからねぇ……」
と、兄が買った食材と食糧棚を漁る。
「夜はある程度がっつりしたメニューがいいかな。残ってるお肉、全部焼いちゃう?」
「全部はさすがに量が多くないか?」
「でも人質に行く前に、食料は全部片づけておきたいじゃない。帰ってきた時、棚がカビだらけになってたら困るし」
「……それは確かに」
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