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第347話
とはいえ、明日すぐに出立するわけではないから、多少猶予はあるのだが。
とりあえず、放置したら腐りそうな食材を片っ端からキッチンに並べ、それを使った料理を作ることにした。卵や生肉、野菜はすぐにダメになりそうだったので、それを全部使った料理は何かと考えた結果、「すき焼き」にしてみようという話になった。
ちょうどいい鍋がなかったので、一人用の鍋を作ろうかと思ったのだが、
「あ、それならうちにちょうどいい鍋があるんだ。今から持ってくるね」
と言って兄が一度自宅に帰り、家から土鍋を抱えて戻ってきた。ミルク粥のためにお米を炊いていた土鍋だ。
「ありがとう。わざわざすまないな……重かっただろ」
「ううん、いいんだ。これでお前と鍋するの、夢だったんだよ」
「夢なのか」
「うん。なんか素敵じゃない? 鍋をつついてこそ家族って感じがするんだよね」
謎のこだわりだが、言いたいことは理解できる。大きな鍋は家族が揃っていないと作ることができないから、「鍋をつつく=家族がいる」という図式になるのだろう。
――まあ俺も、兄上と鍋をつついたことは数えるほどしかないしな……。
せっかくの機会だ。早速アクセルは野菜や肉を食べやすい大きさに切り、割り下を作って鍋を火にかけた。
熱せられた鍋底に牛脂を薄く引き、その上で軽く肉を焼き、適当に火が通ったところで割り下を投入する。少しの間煮込み、肉の旨味が割り下に沁み出したところで、今度は野菜を入れてまた煮込んだ。
それだけで、随分美味しそうな匂いがしてきた。
「ところで、この卵は生のまま食べられるのか?」
アクセルはキッチンに置いてあった卵を手に取った。先程買ったばかりだが、ヴァルハラで購入した卵をそのまま食べられるかは確かめたことがない。
すると兄はひょいと卵を掴んで、何事もなかったように器にパカッと割った。
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