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第363話

「ベッドぐちゃぐちゃになっちゃったから、今日は床で寝ようか」  浴室で身体を綺麗にした後、兄は清潔な布団を床に敷いた。床のスペースもあまりなかったので、ひとつの布団に二人で寝ることになった。まあ、薄々そうなるだろうと思っていたが。 「ああ……あと三時間くらいしか寝られない……」  そうわざとらしくボヤいたが、当の兄は涼しい顔をして言った。 「お前、洞窟から帰ってきた後思いっきり爆睡してたじゃない」 「それはそうだが、俺の中で夜は眠る時間って決まってるんだ」 「そうかい。お前は時々真面目すぎて困っちゃうね。もっと自由に生きていいんだよ」 「兄上が自由すぎるから、俺が真面目にならざるを得なかったんだ」 「なるほど、二人でバランスをとってるってことか。道理で相性がいいわけだ」  自分に都合よく解釈し、兄はぎゅっとこちらを抱き締めてきた。アクセルも腕を伸ばして抱擁を返した。こうして兄の温もりを感じている瞬間が、一番幸せだ。これがしばらく遠ざかってしまうと思うと、少し寂しい。  兄が言った。 「バルドル様の元でも、元気にやるんだよ? あっちはこっちと気候が違うかもしれないから、風邪ひかないようにね」 「兄上は心配性だな。俺なら大丈夫だよ。手紙も書くし、一年なんてあっという間さ」 「うん、そうだよね。でも、弟のこととなるとどうしても心配しちゃう。これもお兄ちゃんの性かな」 「……かもな。あなたのような人が兄だから、俺はどこまでも甘えたくなる」 「甘えて欲しいな、どこまでも。ただでさえお前はしっかり者で、何でも自分一人でやっちゃうから。普段はともかく、いざという時はお前の助けになりたいっていつも思ってるんだよ」 「なってるよ、十分。これまで何度ピンチを救ってもらったことか……。兄上がいなかったら、俺は今ここにいないかもしれない」 「そうかもね。でも今回ばかりは一緒に行けない……。お前はお人好しでいろんなトラブルに巻き込まれやすいから、本当に気を付けてね……」 「ああ、肝に銘じるよ……」  兄に抱き締められながら、アクセルは短い眠りについた。

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