364 / 2195
第364話
バルドルのところがどんな場所かはわからない。アクセルにとっては何もかもが未知の領域で、どんな生活が待っているかも想像できない。
だけど……それでも、一年くらいなら何とかなるだろうと思った。
***
数日後、アクセルが旅立つ日がやってきた。
世界樹・ユグドラシルのすぐ近くにゲートがあり、ここから別の世界――ヴァン神族の世界 や下界、黄泉の国にも行けるらしい。
ただ、このゲートは普段は閉じられているので、いつでも気軽に移動できるわけではないそうだ。
――これで本当に、一年間兄上には会えなくなるんだな……。
アクセルは後ろを振り返った。
見送りに来ていたのは兄だけだった。他の者はいなかった。
同期のチェイニーくらいは来てくれるかなと思っていたけど、影も形もない。チェイニーが忘れているとは思えないから、もしかしたら「お別れくらいは兄弟水入らずで」と気遣ってくれたのかも……と思った。
「向こうに着いたら、すぐに手紙書いてね」
と、兄が念を押してくる。
「風邪をひかないように注意して。トレーニングも忘れずにやるんだよ? ご飯もちゃんと食べて、しっかり寝て、それから……」
「大丈夫、わかってるよ。もう子供じゃないんだ。基本的なことは自分でできるさ」
ちょっと苦笑しつつ、アクセルは懐から小さめの木像を取り出した。そしてそれを兄に差し出した。
「兄上、これ」
「何だい?」
「兄上にリクエストされてたから、急いで作ったんだ。あまり上手くできなかったが……」
受け取った兄が目を丸くする。それはアクセルの縮小フィギュアだった。
旅立つ日まであまり時間がなかったので、死合いが終わってすぐに木材を探しに行き(この時の死合いは腰痛がひどかったけど、どうにか勝てた)、ほとんど家にこもって木を削りまくったのだ。
細かい表情や服のシワ、髪の毛を再現するのは大変だったが、どうしても出発前に兄に渡したかったので、最後は徹夜で頑張った。
ともだちにシェアしよう!