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第365話
兄は全体をくるくる眺めながら、感嘆の溜息を洩らした。
「すごい……本当にお前が再現されてる」
「自分のフィギュアを作るのはちょっと恥ずかしかったけどな。でも、これで少しでも兄上が喜んでくれるなら……」
そう言ったら、いきなり兄に抱き締められた。兄はさも幸せそうに言った。
「ありがとう、お前は本当に最高の弟だ。これ眺めながら、毎日お前を想うことにするよ」
「ああ、そうだな。俺も兄上にもらったお守りを見ながら、兄上を想うよ」
もっとも、例えお守りを失くしたとしても、兄を想わない日なんてない。
「……そろそろ時間だね」
と、兄がやんわりと腕を解いてくれる。
「さ、もう行きなさい。これ以上一緒にいたら、どんどん名残惜しくなっちゃう」
「……そうだな。じゃあ行ってくるよ」
「うん、頑張って。一年後にまた会おうね」
そう言って、兄は笑いながら手を振ってくれた。
ちょっと泣きそうになったが、別れ際に涙を見せるわけにはいかなかったので、意地でも笑顔を作ってみせた。
――行ってきます……。
アクセルは真っ直ぐゲートに歩いていった。振り返ることはなかった。今生の別れではないし、すぐまた帰って来られると思ったのだ。
――帰ったら、兄上と暮らす準備をしてみよう。
ベッドを新調するとか、家具・食器を買い換えるとか。いや、それ以前にどのくらいランクを上げれば同居が許されるのか調べないと……。
帰った時の楽しみをあれこれ考えながら、アクセルはゲートをくぐった。
数歩歩いたところで出口が見えてきた。ゲートを抜け出て、周囲を見回してみる。
到着した場所は、ヴァルハラとさほど変わらなかった。世界樹・ユグドラシルも――全ての世界を貫いて存在しているだけあって――ゲートのすぐ側に佇んでいる。同じアース神族の世界 だから、文明的な差はあまりないのかもしれない。
「ああ、もしかしてきみかな?」
ゲートを出てすぐに、とある人物に声をかけられた。アクセルはそちらに目をやった。
「えっ……?」
思わず小さく声が漏れる。
その人物は……何というか、たった今別れてきた兄によく似ていたからだ。
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