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第367話
するとバルドルは、にこりと微笑んだ。その笑い方も兄に似ていた。
「それはいいね。私にもたくさん兄弟がいるけど、特にホズと仲良しなんだ」
「ホズ……様?」
「そう、私の弟さ。真面目で優しい子なんだ。ちょっと目が悪いけどね」
なるほど、バルドルもホズとかいう神の兄なのか。ますます親近感が湧いてきた。
――気難しい神じゃなくてよかった……。
調子は狂うけど、何とかやっていけそうだ。落ち着いたら兄に手紙を書かなくては。
「ここだよ」
バルドルが連れてきてくれたのは、一軒の小城だった。
ただ、想像していた城より随分質素で、城というよりちょっと大きめの一軒家という感じがする。兄の自宅を三階建てにした……くらいの規模だ。これなら、元貴族・ユーベルの屋敷の方がずっと大きいかもしれない。
――神なのに、屋敷はかなりシンプルなんだな……。
少し驚いていると、バルドルは城に入ってとある部屋に案内してくれた。
「今日からここがきみの部屋だよ」
「……え?」
更に驚いて、思わず目を丸くする。
バルドルが「きみの部屋だ」と言ってくれたのは、立派なゲストルームだった。
一部屋でアクセルの自宅くらいの広さがあり、専用のトイレやバスルームもついている。もちろんベッドやテーブルなども備え付きで、簡単な流し台もあった。
バルドルはにこやかに言う。
「家具は置きっぱなしだけど、好きに模様替えしていいからね。足りないものがあったら――文房具とか、布団とか――必要ならいくらでもあげるから、遠慮なく言って」
「…………」
「わかった?」
「あ、はい……いえ、でも……」
「なあに? 何か気になることでもあった?」
「いえ、気になるというか……あの、本当にここ、俺が使っちゃっていいんですか?」
「もちろんだよ。どうして?」
「いえ、その……これは人質の身分にはあまりにも贅沢で……」
これでは「人質」ではなく「お客様」だ。こんなにもてなされては、ますます調子が狂ってしまう。
奴隷のような過酷な労働は勘弁して欲しかったけれど、初日からこんなに甘やかされていいんだろうか、俺は?
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