368 / 2195
第368話
するとバルドルは、軽やかに笑い出した。
「そんなこと気にしてたの? きみは真面目だね」
「いえ、でも……」
「さっきも言わなかったかな? 形式的には『人質』かもしれないけど、私はきみのこと『お客さん』だと思ってるんだ。部屋はいっぱい余ってるし、使ってない家具もたくさんある。きみが有効に使ってくれるなら、その方が嬉しいよ」
「は、はあ……」
「それに、私は普段この屋敷に一人暮らしでね。お客さんも滅多に尋ねて来てくれないからちょっと寂しいんだ。だから一年間とはいえ、きみが来てくれてよかったと思ってる」
「バルドル様……」
「それにほら、きみはあくまで父上の戦士だからさ。父上の持ち物を雑に扱うわけにいかないじゃない。私が怒られちゃうよ」
と、冗談めかして言った後、真顔でこう告げてきた。
「だから、ここでは遠慮しないで。あれが欲しいとか、これをやりたいとか、何でも言ってくれてかまわないからね。私もいろいろお願いすることがあるかもしれないけど、お互い楽しく暮らしていこう」
「…………」
「お返事は?」
「は……はい、あ……バルドル様」
反射的に「兄上」と言いそうになって、慌てて「バルドル様」と言い直す。
――「お返事は?」なんて、ますます兄上みたいだ……。
間違って呼んでしまわないように気を付けなければ。どんなに似ていても、バルドルはあくまでバルドル。兄・フレインではない。
しかし、不自由ない暮らしができそうで安心した。アクセルは彼の顔色を窺いながら、なるべく丁寧にお願いした。
「あの、バルドル様……ひとつお聞きしたいんですが……」
「うん、何だい? 何でも言って」
「ヴァルハラにいる兄に手紙を書きたいのですが、そういうことは可能でしょうか? もし可能であれば、やり方を教えていただけると助かるのですが……」
ともだちにシェアしよう!