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第370話
「兄上へ
元気にしているだろうか。俺はもちろん息災だ。
こちらに到着して、すぐにこの手紙を書いているんだが、兄上の手元に届くのに何日かかるんだろう? すぐに届けられるという話だったが、タイムラグがあるかもしれないからそこは了承してくれ。
バルドル様はとても優しい方だった。『人質』のつもりで行った俺を、『お客様』として扱ってくれたんだ。
バルドル様は普段、屋敷に一人暮らしで、客人も滅多に訪ねて来ないらしい。そのせいか、俺へのもてなしが半端なくてな。こんなによくしてもらえるとは思ってなかったから、正直ちょっと戸惑っているよ。このレターセットも、バルドル様が貸してくれたんだ。使っているのは『ガラスペン』とかいう綺麗なペンなんだが、一度インクにつけるとなかなか途切れなくて書き心地もすごくいいんだ。機会があったら、兄上にも是非使ってもらいたいな。
仕事は……まだ何をするのかよくわからない。何もせずに一年間過ごすとは思えないから、何かしらの労働は任されるはずだ。ただ、バルドル様のことだから、とんでもない重労働はさせないんじゃないかな。まあ、何を言われても努力はするつもりだが。
そうそう。バルドル様は見た目といい、性格といい、喋り方といい、兄上によく似ているぞ。初めて見た時はさすがに驚いた。
……あ、もちろん兄上の方が数倍美人だと思うけどな。でも兄上に会えない分、近くに似ている人がいると癒されるよ。
兄上は今どうしている? 暇を持て余していないか?
狩りや鍛錬をするのはいいが、間違っても誰かと浮気なんかしないでくれよ?
では、またすぐに近況を報告する。待っててくれ。
兄上からの手紙も待っているからな。
アクセルより」
書き終えた手紙のインクを乾かし、丁寧に四つ折りにして封筒に入れた。そしてシールを貼って表面に「ヴァルハラのフレイン様へ」と書き、バルドルの部屋に戻った。
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