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第373話

 どうにか巣箱型ポストに辿り着き、手紙を取り出してそこに投函する。  それでホッとしたのかちょっと力が抜けてしまい、ズルッと手がすべってしまった。 「おわっ!」  あっ、と思った時にはもう遅く、アクセルは世界樹からすべり落ちてしまった。  受け身を取る時間もなく、叩きつけられる衝撃を覚悟し、ぐっと奥歯を噛み締める。 「おっとっと」  が、下にいたバルドルが両腕を広げて自分を受け止めてくれた。その反動で、二人まとめて地面に倒れてしまった。  アクセルは慌てて立ち上がり、バルドルに寄り添った。 「あっ……バルドル様、申し訳ありません……! お怪我はありませんか?」 「大丈夫だよ。それよりアクセルこそ怪我はない?」 「俺は大丈夫ですが……」 「ならよかったね。次にポストに登る時は気を付けて……というより、ポストそのものを作り直した方がよさそうだけど」  爽やかに笑って立ち上がるバルドル。  思わずトクン……と胸が高鳴り、アクセルは彼を見つめ返した。  ――何だか、本当に兄上みたいだ……。  もちろん別人なのは重々承知している。そこはちゃんと区別できているつもりだ。  だけど、バルドルを見ていると自然と兄が重なって来てしまう。姿形だけでなく性格も口調も振る舞いも似ているから、つい兄と一緒にいるような錯覚に陥ってしまう。  兄上も、俺が木から落ちそうになったら下で受け止めてくれるだろうな……なんて思ったら、たまらなくて……。 「……どうしたの?」 「えっ……?」 「なんか泣きそうな顔をしているけど……」 「!?」  そう言われて、アクセルは慌てて顔を背けた。ごまかすように目をゴシゴシ擦り、にこっと微笑んでみせる。 「何でもありません。ちょっとその、目にゴミが入ったみたいで……。お気遣いなく」 「……そうかい? 何か気になることがあったら言ってね。私でよければ聞くよ」 「ありがとうございます……」  弟の戯言を「うんうん」と聞いてくれるところも、兄に似ている気がした。

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