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第374話

「じゃあ、その辺をぶらぶらしながら帰ろうか」  バルドルが背を向けたので、アクセルはその後を追った。  ぶらぶら……と言っても、もともとお隣とは十キロ近く離れている過疎地帯なので店などがあるわけでもなく、「この道を真っ直ぐ行ったら広場に着く」だの「あそこを曲がったら泉がある」だの、そういったざっくりした道案内で終わってしまった。 「つまらないところで申し訳ないね」  と、屋敷に帰ってバルドルが言う。 「本当になーんにもないところだろう? こんなところに私一人じゃ、やることなくて退屈なの、わかる?」 「確かに、思った以上に静かなところですね……」  頑張ってオブラートに包んだ言い方をしたが、こんなに何にもなくて買い物等はどうしているんだろう。 「あの、食材の買い出しとかはどうしているんですか?」 「欲しい物を書いてポストに入れておけば、翌日には屋敷の前にどっさり届くんだ。だから買い物はほとんどしたことがないんだよね」 「え、そうなんですか?」 「そうなんだ。食材も、家具も、文房具も全部、翌日には届けられるの。欲しい物は手に入るけど、つまらないよねぇ……」  市場に出掛けて行って品定めするのも、楽しみのひとつなのに……と、バルドルは言う。  ――確かに、これじゃあ本当にやることが限られるな……。  仕事をするか、読書をするか、料理をするか、ちょっと散歩に出掛けるか。話し相手もいないから、一人でお茶を飲んでもつまらない。  ――道理で手厚くもてなしてくれるはずだ……。  久しぶりの客人だと言っていた。いつもは滅多に訪ねて来てくれないとも。  そんな生活が長く続いていれば、人質だろうと何だろうと、歓迎したくなるに違いない。一年間限定ではあるものの、「楽しい時間を過ごしたい」と言った気持ちがわかる気がする。

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