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第375話
「…………」
アクセルは思い切ってバルドルに聞いた。
「バルドル様、昼食はどうしますか? 特に予定していないのなら、俺が作りましょうか?」
「え、いいのかい?」
「ええ。あまり豪華なものは作れませんけど……」
「わあ、ありがとう。じゃあ私も一緒に作るよ」
任せるのではなく、一緒に。何ともバルドルらしい反応だ。
アクセルは「はい」と返事をし、厨房に案内してもらった。
――わ……広い。
屋敷の規模にふさわしく、キッチンもゆったり作られていた。部屋の真ん中に大きめの作業台が設けられており、その周囲に流しやコンロがある。作業効率もよさそうで、気持ちよく料理ができそうだ。
「自分ではよく料理するんだけどね」
と、バルドルがエプロンを着ける。アクセルもお揃いのエプロンを着用した。
確かにこのキッチンは、調理器具といい流し台といい、それなりに使い込まれている感じがする。
「でも自分しか食べる人がいないと思うと、なんだか張り合いがなくて。時々サボりたくなるんだ」
「わかります。俺も一人の時は、『まあいいか』と思いがちで」
「だよねぇ。その分、誰かと一緒に料理できるのは嬉しいよね。何作ろうか」
「まずは食材を確認しましょう」
そう言ってアクセルは、作業台の下にある食料倉庫を覗き込んだ。
嬉しいことにかなり贅沢な食材が揃っており、新鮮な肉や卵、ミルク、葉野菜まであった。これだけあれば好きなものを作れそうだ。
――これに関しては、兄上と全然違うんだな。
ちょっと笑いそうになった。
兄の食料倉庫なんて、ジャガイモと干し肉と小麦粉くらいしかない。自分がいない間、ちゃんと食事をとれているのかちょっと心配になってきた。次の手紙で釘を刺さねば。
「アクセルはどんな料理が得意なんだい?」
バルドルが聞いてくるので、アクセルはイノシシ肉と人参を取り出した。
「得意というわけではありませんが、イノシシのシチューはよく作りますね。ヴァルハラの名物なんです」
「そうなんだ? じゃあそれを作ってくれるかい?」
「はい」
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