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第376話

 包丁を手にし、手際よく肉と野菜を切り刻んでいく。  下味の塩・胡椒をふり、鍋に火をかけて切った肉をしばらく炒める。色が変わったところでニンジンやジャガイモも投入し、火が通るまで炒めた。  その後、水をたっぷり加えてしばらくぐつぐつ煮込む。肉から灰汁が出てきたので、その都度こまめに取り除いていった。 「なるほど。きみはなかなか細やかな性格をしているようだね。料理のやり方を見ていると、よくわかる」  バルドルがそんなことを言い出したので、アクセルは手を止めずに答えた。 「そうですね……自分は細やかなつもりはないんですけど。兄が大雑把な分、俺がきっちりするようになったのかもしれません」 「兄弟でバランスをとっているんだね。うちもそうだよ。私がいい加減な分、ホズが真面目なんだ」 「そうなんですか。ホズ様って、俺に似てたりします?」 「うん、そうだね。雰囲気はちょっと似てるかも。性格も共通点が多そうだ」 「なるほど……。それは一度お会いしてみたいですね」 「ホズが遊びに来た時に見てみるといいよ。その時は、また料理を作ってくれるかい?」 「もちろんです」  アクセルはにこりと微笑み、おたまで鍋を掻き混ぜた。  ふと、宴の時にイノシシのシチューを大量に作ったことを思い出した。今思えば、あの辺りから兄との距離が縮まったような気がする。  ――兄上、今何してるんだろう……。  ヴァルハラは今何時だろう。こちらはお昼頃だが、時差はあるんだろうか。  昼でも夜でもいいが、ちゃんとご飯を食べているのか少し気になる。兄はあの性格だから、放っておくとどこまでもだらしない生活をしそうだ。  ジークあたりはしっかりしているけれど、だからと言って何から何まで友人に面倒を見てもらうのも、浮気みたいで釈然としないし……。  ――ああ、気になるなぁ……。  手紙を出してきたばかりで何だが、もっとダイレクトに連絡を取る手段があればいいのに……と思った。そうしたら、兄の様子を逐一窺うことができるのに。

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