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第377話

「うん、いい匂いがしてきたね」  最後にシチューの元を入れたら、とろみが増して香りも立ってきた。  そのまま数分間煮込み、野菜も肉も柔らかくなっているのを確認して、アクセルは鍋を火から下ろした。そして厨房の隣にある食堂に、昼食を運び込んだ。  食堂自体もかなり広かった。たくさんの客が来てもいいように、縦に長いダイニングテーブルが真ん中にドーンと置かれている。全ての椅子に繊細な彫刻が施されており、明らかに高価なものだと窺えた。  ただ、自分一人で食事するには、このテーブルと椅子は少々仰々しい気がする。 「そっちじゃなくて、こっちで食べようか」  バルドルが示したのは、給仕用の雑用机だった。カフェにある四人席テーブルくらいの大きさだろうか。シチューの鍋を置いて、二人で向かい合って食事するにはちょうどいいかもしれない。 「普段はこっちしか使ってないんだよね。あっちはちょっと大きすぎて」 「確かに、一人で食事するには寂しいかもしれませんね」 「だろう? パーティーがあればいいけど、そういう機会は滅多にないし。だからいつもはこっちで十分なんだ」  そう言って、バルドルは給仕用テーブルについた。アクセルも真ん中に鍋を置き、向かい側に回った。 「バルドル様の口に合うといいんですが」  と言いながら、皿にシチューを盛る。失敗はしていないので、とんでもない味にはなっていないはずだ。 「よし、じゃあいただこうかな」  シチューにパンを添え、バルドルと食事をとった。シチューを口にした彼は「美味しい」と喜んでくれたので、アクセルもちょっと嬉しくなった。 「ヴァルハラでは、お兄さんと一緒に暮らしているの?」  バルドルが話を振って来る。アクセルは苦笑しながら首を横に振った。 「いえ、まだ一人暮らしで……。いずれ一緒に暮らしたいと思っているんですが、ランクが足りないらしく……」 「そうなのかい? ヴァルハラにそんなルールあったっけな……」 「……え?」

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