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第382話
――ヴァルハラに来たばかりの時は、心細かっただろうな……。
今でこそそれなりに友人もいるが、昔は苦労も多かったんじゃないか。独りぼっちで寂しかっただろうし、高ランクの戦士たちから嫌がらせをされ(ていたと、遠回しに言っていた)し……。
そんな風に兄が精神的にも辛い日々を送っている時、自分は何の力にもなれなかった。ヴァルハラにすらいなかった。
こっちは兄に何度も助けられているのに……。
「……何か落ち込んでるね?」
「えっ……?」
唐突にバルドルに指摘され、アクセルはハッと我に返った。彼の顔を見た一瞬だけ、兄の顔とかぶった。
「あ……いえ、何でもありません」
「本当? 悩みがあるなら聞くよ?」
「いえ、こっちの問題なので……。ちょっと兄のことを考えていただけですから……」
「ああ、きみのお兄さんか。綺麗で優しくて強いって言っていたね」
「ええ、まあ……。俺にはもったいないくらいの兄なんですが……俺は何の力になれていないなと……」
話すつもりはなかったが、気づいたらポツポツ話してしまっていた。
兄・フレインがいかに優れた人間かということ。自分は心から兄を尊敬し、愛していること。少しでも兄に追いつきたくて、生前からずっと努力していること。
でも年齢差が十一歳もあるせいか、ちっとも追いつけている気がしないこと。肝心な時に何の力にもなれないこと。そんな自分が不甲斐ないこと……。
「……考えてみれば、兄は俺に向かってほとんど弱音を吐いたことがないんですよ。もともとおおらかで小さなことは気にしない人なんですけど、それでも悩みのひとつやふたつあるはずで……。でも俺は、兄に悩みを相談されたことは一度もなくて」
「そうか……」
「きっと、俺があまりに年下で未熟だから頼りにならないんでしょうね……。まあ、未熟なのは事実なんですけど。でも、せめて兄が辛い目に遭っている時くらい、力になれる存在でありたいなって……そう思ってるんですが……」
バルドルは「うんうん」と話を聞いてくれていたが、やがて真面目な顔で話し始めた。
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