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第390話

 声だけで通信できる道具とか。そういうものがあれば、兄との距離もぐっと縮まると思う。  もっとも、手紙がこれだけすぐに届くのだから、あまり贅沢も言えないけれど。  浴室から出て身体の水分を拭き取り、机で乾かしておいた手紙を確認した。もうインクが完全に乾いていたので、四つ折りにして封筒にしまった。これも後で出しに行こう。  封筒を懐にしまったところで、ふとあることを思い出してベッドを覗き込む。  バルドルが寝ていたはずのベッドは、何事もなかったかのようにメイクされており、布団も枕もピシッと皺が伸ばされていた。髪の毛ひとつ落ちていなかった。  ――バルドル様、ちゃんとベッドメイクしといてくれたんだな……。  こういうところは、兄とちょっと違う。兄はかなり大雑把だから、ここまでピシッとベッドを整えたりしない。  というか、兄の場合は寝たら寝っぱなし、布団も適当に二つ折りにするだけだ。少なくとも、アクセルの家に泊まりに来た時はいつもやりっぱなしである。  小さく笑いながら、アクセルは部屋を出て厨房に急いだ。手紙を読んで、返事を書いて、それからシャワーを浴びて……とやっていたので、結構な時間が経ってしまった。バルドルを待たせてはいないだろうか。 「やあ。さっぱりしてきたかい?」  バルドルは朝食のプレートを、食事用のテーブルに並べているところだった。  トーストやベーコンエッグ、サラダにスープ、コーヒーも淹れられている。アクセルからすれば、かなり贅沢な朝食だった。こんなに手間をかけなくても、シリアルくらいでよかったのだが。 「すみません、何もお手伝いできず」 「いいのいいの。誰かのために料理するって楽しいからさ。つい作り過ぎちゃった」 「ありがとうございます……。片付けは俺がやりますので」 「いやいや、それは一緒にやろう。できる時はなるべく一緒がいい」 「はあ、ですが……バルドル様にはお仕事もあるのでは」

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