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第391話

「私の仕事なんてたいしたことじゃないよ。それに、昨日も言わなかったっけ? 私は普段一人だから、誰かと一緒に何かをする機会なんて滅多にないの。だからなるべくきみと多くの時間を共有したいんだ」 「バルドル様……」 「ああ、もちろんきみが『一人の方がいい』って言うなら、私はおとなしくしてるけど」  そう言われて、アクセルはぶんぶんと首を横に振った。  一人ならトレーニングしたり木彫りをしたり……とやることはそれなりに思いつくが、どうせここに来たのなら、ヴァルハラではできないことをしたい。兄にも「バルドル様といろんな思い出を作ってね」と言われたし。 「それじゃ、いただこうか」  二人で向かい合って席に着き、「いただきます」をしてゆっくり食事をとった。朝からこんなのんびりしていていいのか……というくらい、ゆったりした時間だった。  ヴァルハラにいる時は死合いだの狩りだの見回り当番だのと、いろいろな予定が入っていたから、時間を気にせず食事をしたのは久しぶりかもしれない。 「アクセルは、朝はしっかり食べる方?」  バルドルがコーヒーカップを持ちながら聞いてくる。  アクセルはベーコンの刺さったフォークを止め、答えた。 「なるべくしっかり食べるようにはしているんですが、時間がない時は手抜きすることも……。死合いがない時はシリアルでごまかすことも多いです」 「そうなんだ? でも戦士だったら食事はしっかり採った方がいいよね。ここでは死合いはないけど、鍛錬はしておかないと身体が訛ってしまう」 「ええ、そうですよね……」 「ああ、そうだ。もしよかったら一緒に鍛錬しない? 一人だと走り込みくらいしかやることがないだろうし」 「……えっ?」  思わず目が丸くなった。  ――一緒に鍛錬って……バルドル様、戦いの心得があるのか……?  失礼かもしれないが、全くそんな風には見えない。バルドルの風貌は、金髪で色白でほっそりした優男だ。武器を振り回すより、机に向かって事務仕事に取り組んでいる方が余程似合っている。

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