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第396話
「……ん?」
倉庫の奥の方に、場違いなガラスケースがあった。美術館の展示品みたいにしっかりした台座に飾られていて、中身がよく見えるようになっている。
――これは……植物?
ごく小さな植物の芽。緑色の葉が種からちょこんと伸びている。風が吹けば飛んでいってしまいそうな、ありふれた植物だ。
それが何故こんなところに厳重保管されているのだろう。
「道具は見つかったかい?」
見入っていたら、背後からバルドルに声をかけられた。
アクセルはびっくりして振り返った。
「あっ……バルドル様、すみません……。ちょっと気になるものを見かけまして」
「ああ、それね……」
バルドルがガラスケースに近付いて、言う。
「これは、『ミストルティン』っていう植物さ。ヤドリギとも言うけど。ヴァルハラの西に生えている植物なんだって。きみなら見たことあるかな」
「あー……ええと、見たことがあるような、ないような……」
山には何度か入ったことがあるが、残念ながらヤドリギの芽があったかどうかなんて、いちいち覚えていない。
軽く笑いながら、彼が続ける。
「まあ、その程度のものだよね。あまり印象に残らない。でも母はこれを私に預けて『厳重に保管しろ』って言うんだ」
「お母様が……?」
「うん。なんか『万物に誓いを立てさせたつもりが、ヤドリギだけは見落としていた。お前を傷つける可能性があるから、厳重にしまっておきなさい』って。このヤドリギが私を傷つけるんだって。おかしいよねぇ」
「はあ、まあそうですね」
こんな小さな芽、例え投げつけられてもあまり痛くなさそうだが。
確かによくわからない話だ……と思っていると、バルドルも「うんうん」と頷いてきた。
「母が言ったから一応ここに保管してみたけど、これで何かが起こるとも思えないよね。だいたい、ヤドリギなんてヴァルハラの西側にいっぱい生えてるだろうし。これひとつ保管したところで『何か?』って感じ」
「確かに……」
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